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短編「聖戦の夜」

Category : 更新記録/日記
危なかった。
ドアを開けた瞬間、背中を一瞬ヒヤリとさせながら、私は内心でそう呟いた。

***

それは寮の就寝時間も当に過ぎた夜中の事。
ルームメイトと共に「いつも」の仕事を終え、二人して部屋に戻ってから五分とすらたっていない、そんな深夜に私たちが住む「648」号室のドアの音が控えめに鳴った。
こんな時間に誰だろう…。
そう訝しく思いながらも、私と唯は仕事着から大慌てで部屋着に着替える。
さすがにこのままの格好で出る訳にはいかない。

「はい?」
逆の意味で身支度?を整えた私は、何事もなかったようにドアを開けた。
「…澪?」
ドアの外に居た相手は、私の幼馴染でもあり、唯一の主。
「ごめん、もしかしてもう寝てた?」
澪は夜中だからだろう、周囲を気にするように小声でそう聞いてきた。
「いや、まだ私も唯も起きてたけど…」
そう言いながら私は彼女を部屋の中へと入れた。
寮内とはいえ、季節は一月。寒気が支配する廊下に、いつまでも我が大事な主を立たせている訳にはいかない。

「あれ、澪ちゃん?」
こんな時間に澪が部屋に来るのは珍しいのだろう、唯は少し驚いた様子だ。
「唯、遅くにごめん」
「いいけど、どうしたの?」
「あ、うん。あの…、ちょっと用事というか」
澪は両手を後ろに回して、なんだかバツが悪そうに口を濁している。

「なんだよ、澪。こんな時間に連絡もなく来るなんて珍しいなぁ。…あ~、またなんか怖い夢でも見たんだな」
たまに澪は幼い頃から見る「夢」のために、情緒不安定になる事があった。
そんな時は大概、幼馴染兼護衛(澪は名ばかりと思っているが)である私を呼び出す。
また私も澪から連絡があれば、否応なく会いに行くのはもはや決まり切ったことだった。
しかし澪はいつもなら、私に多少遠慮して先にメールや電話で確認を取ってくるのだが、何の連絡もなく突然部屋に来るなんて珍しいことだった。

「ば、バカ、違うよ。その、ちょっと」
「なんだよ」
「だから、今日は…」
澪の要領を得ない話に私が少し首を傾げていると、唯の携帯から着信をしらせる曲が流れた。
こんな時間に電話がかかってくるなんて、これまた珍しい。

「はい、はーい」
唯はさして時間の事など気にしていないかのように、いつものお気楽な調子で携帯を手に取った。
「あれ、ムギちゃん?どうしたの、こんな時間に?」
「ムギ?」
澪だけじゃなく、ムギもまだ起きているらしい。
いつもはそれ程夜更かしをしない二人にが、今日はなにやら夜更かしをしているようだ。
「え?あ、うん。…あー。なるほど~。ふんふん。…オーケー、了解しました!」フンス
私や澪に背中を向け、なにやら楽しげな様子で携帯片手に話をしているルームメイトの姿に、私は何となく嫌な予感がしなくもない。

「んじゃ、後で」
そう言って携帯を切った唯は、パッと体をこちらに向けた。
「りっちゃん」
「な、なんだ?」
私の名前を呼ぶ唯の顔が、妙に二ヤついているように見えるのは、単なる気のせいだろうか?
「私は今日は、ムギちゃんの部屋で寝ます」
「は?」
「え?」
澪と私が同時に疑問の声を上げる。

「な、なんで?」
「ムギちゃんが今日はこっちに泊ってね、唯ちゃんて」
私の当然の疑問に唯はそう答えた。
「え?な、なんでムギがそんな事…」
「えっと、馬にけられたくないなら今日はこっちに来た方がいいわよ、てムギちゃんが」
「はぃ?」
馬ってなんだ?話が見えん。
「さっきから何を言って。てゆうか澪は何しに来…」
「じゃ、そういう訳だから!おやすみー、りっちゃん、澪ちゃん」
私はさっぱり意味がわからなくなってきたので、元々の疑問であるこんな時間に何しに来たのか、もう一度澪に尋ねようとするのを遮るように唯はそう言うと、慌ててドアから出て行ってしまった。

「え、ちょ…」
私が止める間もなく唯は部屋を出て行ってしまった。
後に残ったのはもちろん私と澪二人のみ。
「なんなんだ?」
普段良く言ってのんびり、悪く言えばだらけた唯とは思えぬ素早い行動に、私はただ不思議に思うばかりだ。

「律…」
「え?あ、まあなんかよくわからないけどさ。澪は今日はこっちに泊る?」
「あ、うん。そうだな…。あ、その、律」
「じゃあ、澪は唯のベッド使いなよ。さて、私はお風呂でも入るか」
仕事から戻ってきたばかり。これからさっさとお風呂に入って寝るつもりだった。
「あ、澪は先に寝てなよ」
明日も授業あるし、これ以上夜更かししたら確実に授業中居眠りするぞー。
なんて言いながら、寮の各部屋に取りつけられたバスルームに向かう私の腕を、澪がそっと触れてきた。

「澪?」
「あ、あのさ。律」
そこまで言った後で、また少し言い淀む澪。
そんな彼女の頬が少し紅くなっているのに気付くと同時に、私の胸の奥で小さな音が鳴り始めたの感じていた。
「な、なんだよ」
なんだか妙に落ち着かなくなってきた私は、少々ぶっきらぼうに聞き返した。

「その明日…いや、もう今日か。とにかく、そのムギと一緒に作ったんだよな、うん」
「は?何をムギと作ったって?」
「だから、あれだよ、あれ。…てゆうか律は明日、じゃなくて今日は何日だかわかってる?」
「え?あ、あー今日は十三日、じゃなくて十四?」
十四?ん?あれ、今は二月で、二月の十四日て言えばえーと…あ!
「あー、あー、あれね!あー、そういえばそんなのあ」
あったな、すっかり忘れてたー、と言う前に澪の非難めいた視線を受けた私は慌てて口を噤んだ。

「…忘れてたのか、律」
「いえいえ。もちろん覚えてますよ。いやー、明日…じゃなくて今日は乙女の聖戦の日だよねー」
そう、すでに時刻は当に十二時を超えた本日は「聖バレンタインデー」。
「忘れてたんだな」
「いやいやいや。覚えていましたよ、もちろん」
本当はすっぱり忘れていましたけど。なんだかそれを言ってはいけないような雰囲気です。

「別にいいけどさ」
「えーと、それでそのバレンタインが何か?」
少し拗ねた言い方する澪に、私は慌てて誤魔化すようにそう聞いてみたけれど。
すぐに私は何言ってるだろう、と瞬時に反省した。
いつもなら必ず連絡するのに(澪なりに私に気を使っているのだ)、今日に限っては何を連絡せず、日付が変わってからすぐに突然私と唯の部屋に来た澪。
唯に今日はこちらに泊ったら、と誘いの電話をしてきたムギ。
さすがにこれらの事を思い返せば、聞くまでもない事なのに。

「何かって…もう、いいよ」
察しの悪い私に少し呆れた顔を見せた澪は、溜息交じりにそう言うと踵を返して部屋を出て行こうとした。
「わ、わ!み、澪しゃん、ちょっと待って!」
そんな澪の様子に私は慌てて後ろから止めようと手を伸ばしたのだが、慌てたのがいけなかったのか少しバランスを崩してしまった。
態勢を整えようとした際に、思わず目の前に居る澪に縋りついた。

「え?」
「…あれ?」
ふと気付くと私は後ろから澪を抱きしめている格好になっている。な、なぜ…?
「いや、こ、これは不可抗力で!」
まったくもってそれは真実なのだが、奈何せん態勢が何ともあれで…。
ただ今すぐにでも離れればいいものを、私の体が妙に本人の意思を無視して動いてくれない。

「り、律?」
現在の状況に気付いた澪が、頬だけでなく首までほんのり紅く染めている。
そんな澪を見ていると、なぜか動揺が多少落ち着いた私は、両手にほんの少し力を入れながら「澪」となるべく優しく彼女の名前を呼んだ。
「…何?」
「チョコレート、作ってくれたの?」
私がそう聞くと、腕の中に居る澪の体がほんの少しだけ震えた。

「…別に律だけに作ったんじゃない」
十二時を回ってからすぐにここに来た澪は、そんな風にバレバレの憎まれ口を叩く。
「それでもいいよ。それでチョコレート持ってきてくれたんじゃないの?」
「…持って来たけど」
律、忘れてたみたいだし。別にいらないだろ。
澪は左手に持っている小さな袋を握りしめながら、また少しぶっきらぼうな言い方をした。

正直なんてゆうかさ、澪。
「どんだけ忘れてたって、やっぱり澪が作ったチョコ食べたい…なんて言っても駄目?」
可愛すぎますよ、この世で只一人の、私の愛しい主様。
「…食いしんぼ」
「否定はしないけどさ。一番最初に食べるのは、やっぱり澪の作ったチョコがいい」
耳元で囁くように私はそう言ってみる。
てゆうか、澪が作ってくれたチョコさえ食べれたら、他はいらないんだけどね。
なんて、さすがにそれは恥ずかしくて言えないや。…いや違う。
私にそんな事を言う資格は無い。でも。

「澪ー」
「…何だよ」
「ホワイトデー、期待してて」
「…絶対忘れるくせに」
「大丈夫。まかせてくださいよー」
こんな軽口を叩くくらいは許されるだろう。
「忘れたら許さないからな」
「りっちゃん特製のを作ってあげるよ。だから、ね、澪」
「…美味しいかどうかなんて、わからないからな」
そう言うと澪は私に背中を向けたまま、左手に持った小さな紙袋を押し付けてきた。
「ごちになりまーす!」
そう言ってまた私は、彼女を抱きしめる両手にほんの少しだけ力を入れた。

ああ、今日は仕事が早目に片付いて本当に良かった。

あと少し遅かったら、こんな時間に二人共部屋に居ない事に、澪は不思議に思ったろう。
あと少し遅かったら、仕事帰りの私たちとばったり鉢合わせていたかもしれない。
澪に「仕事」帰りの私を見せたくなかった。
きっとその時の私は、彼女が知っている「私」ではないだろうから。
やっぱり今日は危なかった。

ドアを開けた際に背中に伝った一筋の汗。
それがまた今頃になって私の体を冷やしてくるような気がした。
…私の手に包まれた彼女は、こんなにも温かいのに。

end

すさまじく今更な季節ネタ。
リハビリ状態はまだ続いてますが、今回は姫と護衛シリーズで。

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