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短編 「0時前の散歩」

Category : 0時前の散歩
短編です。
律ちゃんと澪ちゃんが散歩しているお話。
読んでやるぜーという方は下記よりどうぞ。

0時前の散歩


散歩したい、と突然澪が言い出した。
「はあ?」
今から?
私はベットの横に置いてある目覚まし時計を確認する。
「もう…23時40分だぞ」
もうすぐ今日が終ろうとしているこの時間に?
「散歩に行こう、律」
「え、私もかよ…」
時間は気にしてないんですか、澪しゃん。夜中だぞ。
「もう遅いし、危ない」
「大丈夫だよ」
ちょっとだけ、ねえ。
珍しく甘えるように澪は私にお願いしてきた。でもなあ。
「寒いだろう」
「大丈夫だよ、今日はそんなに寒くない」
確かに今日学校へ行く前にTVで見た天気予報では「今日と明日は寒さが少し緩むでしょう」と言っていた気がする。実際昼間もそんなに寒くなかった。
寒い冬の日の中でたまにある暖かい日。

「でも寒いよ。風邪引くぞ」
「あったかい格好していけば大丈夫。律、行こう」
そう言いながらもう澪はオーバーを着込み、帽子はどこに置いたっけと探している。
行く気満々だな。
「仕方ない」
私は立ち上がってダウンを来てマフラーを首に巻く。
それにしても突然なんでこんな夜中に散歩なんだ?
「準備できた、律?」
「ああ」
ま、いいか。どこを歩く気かしらないが、途中コンビニ寄って肉まん買って食べよ。

「手袋は?」
「ちゃんと持ってるよ」
完全な防寒スタイルで二人して玄関を出る。寒いことは寒いけれど、まあ我慢できない程じゃあない。吐く息だって白くはならない。
「どこ行くんだよ」
「うーん」
考えてない、と澪。なんだそりゃ。
「じゃあ、コンビニ行きたいんだけどいいか?」
「うん。でもちょっとそこら辺歩いてからね」
とにかく歩きたいらしい。なんだろう?急にウォーキングダイエットでも始めたか?
「ははーん、澪しゃん、いわゆる有酸素運動ってやつですね。冬は大変だなあ、年中ダイエッターには辛い季節…」
ドゴ。
最後まで言い終わる前に頭に拳骨が落ちる。

「違う」
「ば、暴力反対…」
痛む頭を抑えながら少し前を歩く澪の背中を見る。別段変わった様子はないようだけど。
「じゃあ、なんでだよ」
腕時計を見てみる。只今23時55分。
「別に」
嘘つけ。
「なんかあったのか?」
「別に」
やれやれ。
つい一時間前までは一緒に借りてきたDVDを見ていたのだけど。その時はごく普通だったよなあ。別に今日なにか嫌な事があったとか、気になる事があるなんて言ってなかったし。もちろんそんな理由で夜中に散歩に行きたくなるかどうかはともかく。
人一番怖がりの澪が夜中に急に歩き出したくなるなんて。理由がさっぱりわからない。

疑問に思いながらも家からほど近い所にある公園まで来ると、澪が誰も居ない公園の中に入っていく。比較的小さな公園。申し訳程度に置いてあるブランコ、砂遊び場。
その合間を二人で抜けて歩く。ここを抜ければコンビニは近い。公園内の淡いほんわりとした街灯が進む道を示してくれる。
夜の公園はなんだか寂しい、誰も居ない砂場を見るとそんな気分になる。少しだけ吹いている冷たい風が私よりほんの少し前を歩く澪の長い黒髪を静かに揺らしていた。

「確かにそんなに寒くはないな」
「そうだな」
気温的には寒くないけれど、誰も居ない公園は心情的に寒いな。
そんな風に思いながら澪の少し後ろを歩いていると、澪がブランコの近くで急に止り後ろを振り返る。さっきから澪の突飛な行動に疑問一杯な顔をしているだろう私を見て少しだけおかしそうに笑った。
「大したことないよ、ただ…」
「ただ?」
「ちょっとこの時期に夜歩くのはどれくらい寒いのかなって思って」
「は?」
この時期に夜歩く?
「そりゃあ、寒いだろう」
なんせ真冬ですよ、今。
当然のように言う私の言葉に、澪は何も答えず振り返ってまた背中を向ける。

しばしの沈黙。歩き出そうとせずにしばらくその場でじっとする澪にちょっと心配になってどうした、と声をかけようとした。
「…しかももうすぐ大学受験が迫っていた受験生が。体調管理はいつもよりずーと気をつけないといけないこの時期に、真夜中に歩くのはどんな気分かなって思って」
「…」

日はすっかり落ちて。
寒くて暗い冬の夜の闇の中を歩くのは、きっととっても寒かっただろうって思うんだ。

両手を腰の後ろに回して組み、私に背中を見せて話すその声はどこか歌っているようだった。

「…さあ、どうかな?そんなに寒くなかったかもよ」
「そんなはずないよ」
しかもすごく雪が降っていた、そんなとっても寒い日だったよ。
くすくすと澪は少しだけ笑っている。
「雪なんて大したことなかったかも。雪国に住んでいる人は日常茶飯事だろ、雪なんて」
我ながら何言ってんだろう、と思う。
「雪国の人はそうかもしれないけど…」
今、私たちの住んでいるここは雪国じゃないよ。
まだ少し笑っている澪。
「いーや、きっとそんなに寒くなかった。寒さなんて忘れるくらい他の事で頭いっぱいだったから」
「へえ、どんなことで頭いっぱい?」
それには答えず私はまた時計を見る。0時まであと少し。5,4,3,2,1…
私は彼女に近づいて後ろから抱き締めた。
「ハッピバースデー、澪」
抱き締めた澪の体は少しだけ冷えていた。

「…ありがとう。で、律。その時何で頭がいっぱいになってたんだ?」
「誕生日おめでとう」
「ありがとう、で、さっきの…」
どうやらさっきの質問への回答拒否は駄目らしい。やれやれ。
「それ聞きたいの?」
「すごく」
はー、…ったく。言わなくてもわかるだろ。まあ、しょーがない。
今日は澪の誕生日だから。大サービス!
「会いたい」
「え?」
「澪に会いたいって思って頭一杯だった」
一年前。雪の寒さも受験も。今が大事な時ことだって頭ではわかってた。
雪が降って寒そうだな、もしかして濡れて風邪引くかも。
玄関を出たドアの前で確かに一度はそう思った。
でもやっぱり澪の誕生日は一番に会いたかった。他の誰よりも一番に。

「…澪?」
せっかくものすごく恥ずかしい気持ちを堪えて言ったのに、澪はまだ私に後ろを見せたまま何も話さない。まあ、私が後ろから抱き締めしめてんだけどさ。そろそろこっち向かない?
「みーおーしゃーん。なんか言ってくれないとかなりハズいんですけ…」
私が言い終わる前に澪の体が震えだしたのに気付いた。
「澪、寒いのか」
いくら今日が例年より暖かい日だからってやっぱり夜中に歩くなんて冷えるよな。
そう思って少しでも暖かくなるように強く抱き締めようとして体を寄せると、何かを堪えるようにくぐもった感じの声がすぐ側から聞こえてくる。
「澪…」
泣いてるのか。
「…律」
なんで泣くんだ。…なにかまずいこと言った?
「澪、どうした」
「り、律、ありがとう…」
「え?」

今日よりもっと寒かった一年前の誕生日に私の部屋に来てくれてありがとう。
今日と同じように誰よりも一番最初に私にお祝いの言葉をくれてありがとう。

涙でところどころつまりながらも、澪は小さな声で、でも私に聞こえるようにそう言った。
「私の…」
「もういいよ、澪」
肩に手をかけて澪の体をなるべく優しく私の正面に向ける。そして泣いている彼女をまた抱き締めた。私の肩に顔を埋めて泣いている澪。泣き虫な幼馴染。大きくなってもちっとも変わらない。私達もう大学生なんだぞ、澪。

澪が泣き止むまでずっと抱き締め背中をぽんぽんと優しく叩く。ようやく泣き止んだ澪の髪に触れてゆっくりと梳いていく。
「急に散歩しようなんて言うから何かと思えば」
「…律が、どれくらい寒くて大変だったのか体験してみようと思って」
はは。どういう発想なんだか。
「昨年だけじゃなくてその前の年もだし、その前も」
「そういやそうだ」
中学からの習慣になってましたから。
誕生日0時きっかり。澪の部屋の窓から忍び込んで「おめでとう!」と言ってプレゼントを渡すのが中学一年生から始めて、毎年のお約束のようになってしまった。
始めて澪の部屋の窓から入ろうとしたときは鍵がかかっていて(当たり前だ)窓を叩いて澪に気付いてもらおうと思い自分では驚かせないように控えめに叩いたつもりだったのだけど、怖がりな澪はおじさんを呼んできてしまった。

あのときは澪じゃなくておじさんがいきなり窓を開けたからびっくりしたなあ。

私は数年前の出来事を頭の中で思い出していた。
おじさんに少し怒られてしまったけど、とりあえず部屋に入れてもらい当初の目的である誰よりも先に澪にお祝いの言葉とプレゼントを渡せて私は満足していた。
渡した後、澪もにっこりと笑ってお礼を言ってくれた直後に「びっくりしただろ!」と怒って私の頭に拳骨を落とした。その時は怒って殴りはしたものの、次の年からは澪は窓の鍵を開けておいてくれるようになった。おじさんも黙認してくれてたみたい。
「あと…」
「まだあるのか?」
「今年はサプライズは無理だろうから」
「まあ、もう夜中に澪の家に不法侵入する必要ないからな」
「いつも律のサプライズを待ってたから。だから今年は待たないで誕生日0時前に自分から出てみようかなって」
で、急に夜中の散歩ね。
…澪の発想はよくわからない、がなんかおもしろい。
でも澪。私をナメてはいけない。

しばらく抱き合いながら話をしていた私たちだが、澪が急にそれに気付いて照れてきたのか少しだけ離れようとする。誰も居ないからいいじゃん、と思いつつも私は腕の力を抜いて彼女を放す。
「ごめん、律。わがまま言って。コンビニ行こうか…」
少しだけ顔を紅くしている澪にそう言われても、この場を動こうとしない私。
「律?」
「澪。はい、バースデープレゼント」
ポケットから小さな箱を取り出し、澪の左手を取って手の平に乗せる。
家を出る前、こっそりポケットに入れて持ってきたそれ。
「え?」
「開けてみ」
箱を見れば中身はもうわかると思うけどさ。
「律…」
中には入っているのは銀の指輪。
「婚約指輪でーす、と言えればいいんだけど。ごめんそれは違う。でも…」

19歳になった女の子にシルバーリングを上げるとその子は幸せになれる。

そんなジンクスを昔どこかで聞いたことがあった。本当かどうかはわからないけど。
「だから19歳の澪の誕生日に」
澪に幸せになって欲しいから。だから今年はずっと前からこれを買うつもりだった。
手の中にある小さな箱に入った指輪をじっと見つめる澪。

「へへ」
いいタイミングでうまく渡せたけど、…ちょっと照れるな。
少しだけ紅くなった顔を誤魔化すように顔を横に向ける。
「…馬鹿。今年はプレゼントはいらないって言ったのに」
「今年はサプライズは無いと思ってたろ、澪ー」
そう言ってニヒヒと笑う私。
まあ、確かに今年から澪の家に0時きっかりお邪魔します作戦はできなくなりましたから。
なんせ一緒に暮らしてるからな。
大学入学してから二人して講義とバンド練習の合間にバイトしてお金溜めて、つい最近今のマンションに越してきたわけで。同じ家の中で0時きっかりサンタよろしく不法侵入してもサプライズにならん。てゆうか不法侵入じゃないし、それ。
私たちはお金を溜めて一緒に暮らそうと約束してからずっとバイトしてようやく引っ越したばかりだったから、お互い手持ちがあまりなかった。
澪もそれを知っているので「来年の誕生日プレゼントはいらないから」と年末に早くもそう私に言ってきたのだ。

「ニヒヒ。驚いたろー」
澪には内緒で短期のバイトを一つ増やして頑張りましたー。
ばれないようにするのが大変だったけど。それでなくてもバイトはけっこうしてたし、一つ増やしたせいで時間を取られて、しばらくは寝不足の日々が続いたけどそんなの無問題。
夏に澪から誕生日プレゼントもらってるしね!
「だからバイト一つ増やしたの、黙ってたのか…」
「あ、あれ知ってた?」
「一緒に暮らしてるのにわからないわけないだろ。…多分このためかな、て思ってたけど」
無理しないで良かったのに…。
澪はプレゼントを見ながら嬉しそうに、だけど少しだけ申し訳なさそうな顔をしてそう言った。

「そーんな、無理してないよ」
なんて嘘で。ここ最近はかなり寝不足になってました。それを澪にさとられないようにしないといけないから、そんな素振りはみせないように頑張ってたんだけどなー。
うーん、しかし今年のサプライズも結局澪にはばれてたか?
今年こそはマジで驚かせようと思ってたんだけど。
「でも…指輪とは思わなかった」
おお、ちょっとはサプライズ成功?
「嫌だったか」
私がそう聞くと澪は小さな声で「バカ」と言った。
「そんな、訳、ないだろう」
やれやれ、また泣きそうだ。でも今泣かせてるのは私だからな。
「あー、つけてみなよ」
澪の瞳にたまった涙を指ですくいながら言う。
私が買った銀の指輪と同じくらい、それ以上に綺麗な銀の涙。

「…律、つけて」
「え、あ、ああ」
なんか、照れるな。えーとどっちの手がいいんだ。やっぱまあ右手…だよな。
澪の右手を取ろうとして、左手を差し出される。
「こっち」
「でも…」
「こっちでいいから」
ちょっとだけ悩んだものの、私は澪の利き手である左手の薬指に指輪をはめた。
「その…、普段ははずしておいていいから」
やっぱり左手の指輪は意味深すぎるよな。
「どうして?」
「どうしてって」
大胆ですね、澪しゃん。
そうだ。いつも大事なところでは私よりずっと大胆に行動するんだ、澪は。
普段はちょっと臆病で泣き虫な彼女。でも本当は私なんかよりずっと強い、大事な事からはけっして逃げない勇気を持っている幼馴染。

左手の薬指に光る指輪を穏やかな微笑を浮かべて見つめる澪。
「ありがとう」
「どういたしまして」
澪のお礼にちょっと気取って答えてみると、彼女はちょっと笑って今度は自分から抱きついてきた。抱き合いながらお互い笑う。しばらくして体を離し、澪の頬に優しく触れ目で確認してから彼女の柔らかい唇に自分の唇を合わせた。
「19歳の誕生日おめでとう、澪」
今日が来てからまだ一時間もたっていないのに何度目かのお祝いの言葉。でも今日だけ
しか言えない言葉だ。またちょっと泣きそうになってる澪。あーあ、本当に泣き虫だな。
少し苦笑い。でもそんなところも好きだよ、澪。

「…ありがとう」
私は澪にお祝いの言葉を、澪は私にお礼の言葉を。お互いに何度も言い合って少し笑う。
でも本当に感謝の言葉を言わなくちゃいけないのは…。
「さ、行こうぜー。もう本当に冷えて風邪引くよ」
指輪をつけた澪の左手に私の右手を繋ぐ。
「うん」
二人して暗い公園の中を抜けてコンビニに向かう。さっきは「風邪引く」なんて言ったけど、本当はちっとも寒くなんかなかった。

澪。本当は私が澪にお礼を言わなきゃいけないんだ。
いつだって大事なことをおちゃらけて誤魔化そうとして、自分自身もだまそうとしていた私に正面から澪は言ってくれたのだから。
「澪」
「なに?」
「…ありがとう」

一年前、私に好きって言ってくれてありがとう。
19年前産まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう。

本当にそう思ってるよ、澪。
でもこんなの口に出していえないや。恥ずかしいからとかじゃなくてさ、いや、
ちょっとはそれもあるけど。なんというか口に出したらたぶん泣いちゃうぞ、私。
嬉しいから、泣きたいほど今が幸せだから。
でもそんなので泣いちゃうなんて私のキャラじゃないぜ。だから…。
「え、何が?」
突然の私のお礼の言葉に澪が不思議そうに私を見ている。澪の瞳はまだ少しだけ潤んではいるけれどもう泣いてはいなかった。
「肉まんおごってくれるだろうから、先にお礼言っておこうと思って」
「なんだ、それ!?」
「だってー、こーんな寒い中澪しゃんのわがままにつきあったんだぞー、肉まんの一つくらいいいだろー」
それに私の毎年この日の苦労がわかっただろー、感謝しろー。もう寒くて、寒くてさあ。
繋いでいない方の手で体を覆うようにして、寒さで震るえるような素振りをする。

「さっき寒くなかったって言ってたろ!」
おちゃらけて言う私に澪がいつもの突っ込みをしてくれる。
「いいじゃ~ん」
「もう、一個だけだぞ」
てゆうか、今日は私の誕生日なんだぞ。
ぶつぶつ文句を言う澪を見て私は笑う。繋いでいる手を少しだけ強く握った。

ああ、来年のサプライズはどうしよう。また考えないとな。
来年こそはもっと驚かせたいな。その次だって。ずっとずっと私に考えさせてよ、澪。
澪にはいつもバレバレのサプライズを。

澪の手の温もりを感じながら、少し先で光るコンビニのライトを目印に、私はこの静かな夜の街を二人で一緒にゆっくりと散歩することに決めた。

end

日記で「微妙にお悩み中」なんて書いといて続きUPしちゃいました。テヘ。
誕生日ネタはこれが最後す。しかしもう遅すぎですねw
このお話を書き終えた後で気付いたのですが。
短編で誕生日ネタ三本書きましたが、なんか三部作みたいになったなあと。

「誰か私に答えて」は高校二年生の誕生日
「勝利を謳おう」は高校三年生の誕生日
そして「0時前の散歩」は大学一年生です。
さしてそうしようと考えてた訳ではなくなんとなくそうなりました。

19歳のシルバーリングは昔なんか聞いたことありまして。
20歳はゴールドリングだったような…。
仕事の合間に書いたー、まだ仕事終ってないでーす。

短編「0時前の散歩」を読んで頂きありがとうございました。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

短編 「勝利を謳おう」

Category : 勝利を謳おう
短編です。
もう過ぎちゃったけど誕生日ネタです。
そしてまた明るくはないけど、暗くもない、…かな。
律x澪でまだ二人は幼馴染で親友の関係です。
読んでやるぜーという方は下記よりどうぞ。

- 勝利を謳おう -


私は一つの賭けをしようと決めた。

ファンヒーターから漏れる小さな音と、ノートに文字を書くシャーペンの音だけが静かな部屋の中に響く。部屋の中は充分に暖かいけれど、私は体を冷やさないようにカーディガンを纏っている。試験当日まで万全を期すために体調管理は欠かせない。

私だけでなく多くの受験生はもうラストスパートの時期。
センター試験を受けるならもう明日が勝負だ。
国立の推薦を蹴り、皆と一緒に受ける私立の女子大の試験日まではあともう少しある。
当然今は、試験日まで勉強に集中しなければいけない大事な時だ。
そんな受験の大事な時に私は一つの賭けをする事に決めた。
その賭けの結果はもうすぐわかる。

ふと時計を見るとあと15分程で今日が終わる。
私は椅子から立ち上がって、一度背を伸ばし固まっていた体を軽くほぐす。
机から離れ、換気の為に少しだけ窓を開けた。
「雪…」
外は雪が降っていた。夜の闇の中にしんしんと落ちていく雪は、綺麗だけどとても寒い。
朝のニュースで今日の夜は冬将軍が猛威を振るいます、と言っていたのを思い出す。
「ますます賭けは私の不利…かな」
小さく呟いた私の声は雪が静かに消していった。
寒気が部屋に入る前に窓を締める。でも鍵は閉めなかった。

勝敗がどちらにころぶとしても、そろそろ用意をしておかないと。
部屋を出て階段を静かに降りてキッチンに入り、大き目のマグカップ二つに熱いココアを入れる。もしかして無駄になる作業かもしれないけれど…。
でも誰だって勝負すると決めたなら、最初から負けるつもりでする人はいないだろう。
だから用意しておくに越した事はない。後の事は後で考えるまで。
でももし私の賭けが負けてしまったら。その時は潔くこのココアを二つ飲もう。

「太るかな…」
冬はそれでなくても太りやすいのに。
甘いココア。心配にはなるが、でも今日だけは仕方ない。
キッチンの壁に飾ってある時計は、0時まであと5分を示していた。
ココアを温めるのにはもう1分もいらない。それでも私はもうしばらくだけここに居なくては。
部屋に戻るのは0時を過ぎてから。

***

受験生の私たちだから、今は勉強が全てにおいて優先されるべきだろう。
だから皆が私の誕生日パーティーを開こう。
…そう言ってくれたのを心から喜びつつも、私はそれを辞退した。

「えー、澪ちゃん。いいじゃん、一日くらいー」
「駄目だ、唯。今が一番大事なんだぞ」
私のために貴重な時間を割いてもらうのは申し訳ない。
「でも…」
「いいんだ、ムギ。試験が終わって合格発表聞いてから盛大に皆で騒ごうよ」
今年ばかりは1月生まれを自分の不運としてあきらめるよ。
私がそう言って笑っても、唯やムギは納得いかない顔をしていた。
梓も少し寂しそうな顔で私を見ている。
「まあ、しょうがないな。澪、今年はあきらめて誕生日を暗ーい気持ちで一人ケーキを食べて過ごしてくれ」
な!と笑顔で言う律の頭に、お約束の拳骨を一つ落としておく。

「…イタタ」
「とにかく皆気にしないでくれ」
私は至って平気な様子を見せた。
「澪ちゃんがそう言うなら…」
「うーん、仕方ないけど。でもりっちゃんがそんな事いうなんて失望したよ、りっちゃん隊員!」
「残念ですね…」
「しょうがないだろー」
唯や梓の言葉に律が「受験生なんだから、当然だろ」と答えた。
「いいから。とにかく全ては受験が終わってから、な」
私の言葉に全員が「しょうがない」といった感じで渋々納得してくれた。
そんな皆の気持ちはとても嬉しくて心から感謝した。約一名を除いて。

誕生日の前日。
私は律を除く軽音部の皆と和から。他にファンクラブからも受験の応援も兼ねたプレゼントをたくさんもらった。誕生日の日は学校がお休みなので前日に皆持ってきてくれたのだ。
貴重な時間を割いて、プレゼントを買ってきてくれた皆の心遣いが嬉しい。

「律先輩は澪先輩にプレゼント渡さないんですか?」
プレゼントの袋や箱を両手一杯に抱えて歩いていた私の隣で、プレゼントの一部を持ってくれていた律に、梓がちょっとだけ責めているような口調でそう聞いてきた。
「ああ、プレゼントね」
梓にそう聞かれた律は、ポケットからちいさなうさぎのぬいぐるみが付いたキーホルダーを取り出すと、私の目の前に差し出した。
「ほい、澪。おめでと」
「ああ、どうも」
さして感激した様子もなく私はそれを受け取ろうとしたけど、両手がプレゼントの袋で塞がっているのでどうしようか考えていると、律は私の制服のポケットにそれを無造作に入れた。

「…それだけ」
梓が少し呆れたような声で律を見ている。
「あのなー、梓。私と澪のつきあいの長さ知ってるだろ。そんな今さら大げさにするもんじゃあないんだよ」
「そんなものですか」
ちょっと納得いかないような梓に、私は「いいから、いいから」と言いながら少し笑った。

「さて、帰るぞー、澪」
「ああ」
荷物を抱えて学校から出ると外はどんよりとした曇り空でとても寒かった。
「今日の夜は雪が降るらしいわね」
寒そうに手を合わせながら空を見ているムギ。
風がとても冷たい。私達の受験日には少しは寒さが緩んでいるといいのだけれど。
私はそう思いながら、たくさんのプレゼントをなんとか家に持って帰った。

***

0時。
キッチンにある時計の長針も短針も丁度真上を指した。
ココアが入った二つのコップをトレイに乗せる。

さあ、私が「私自身」に賭けた勝負の行方を見届けよう。

頭でそう思っても私の体は動かなかった。早く行かないとココアが冷めてしまう。
わかっていても足が前に出なかった。
でもこのままここでじっとしているわけにはいかない。
「…行こう」
トレイを持ってカップを落とさないように慎重に階段を昇る。部屋のドアノブに手を掛けたとき、私は自分が少しだけ震えていることに気付いた。
一つ深呼吸をする。マグカップの中で揺れていたココアが水平になるのを待ってから、私はドアノブを横に回した。

開いた瞬間部屋から感じる寒気。立ちすくむ人の気配。
「…いらっしゃい」
「お邪魔します」
部屋に居た彼女は毛糸の帽子を被り、暖かそうなダウンジャケットを着ている。
首に巻いたマフラーを口元まで覆った完全な防寒スタイル。
でも頭や肩に少し雪が積もっていて、見るだけで寒そうだった。
ここに来るまでは差していただろう傘も、窓によじ登る際は使えなかったのだろう。
少しだけ寒そうに震えながら笑うその鼻は赤かった。まるでトナカイさんだ。
今日はクリスマスじゃなくて、私の誕生日なんだけど。

私は引き出しからハンドタオルを取り、その体にかかっている雪を払いのけた。
「悪い。入る前にちょっと払ったんだけど」
「いいから。ほら、脱いで。風邪引く」
ハンガーに帽子とジャケット、マフラーをかける。手袋はファンヒーターの前で乾かす。
「予想外に雪がひどかったよ」
いや、寒かったー、と言って笑うその手に熱いココアを渡した。渡すときに少し触れたその手は冷えていた。
「ほら。早く飲め」
まったく。本当に風邪でも引いたらどうするんだ。もうすぐ受験なのに。
「おお、用意いいなー、澪。あり?もしかして読まれてた?」
ココアを受け取るその顔は私があまり驚かず、さらにこんなものまで用意していたのでどうやらサプライズは不発に終ったことを残念がっているようだった。
「まあね。毎年の事だし」
「へへへ。そうかー、残念」
うまー、と叫んで熱いココアを啜る不法侵入者は私の幼馴染で親友だ。

中学生のとき、私の誕生日に驚かせようと考えた彼女。
今日と同じ0時ちょうどに私の部屋に、サンタクロースよろしく入ろうとしたのだが。
最初の時は私はそれに気付かず、当然ながら窓の鍵を閉めていたので、夜中に窓の外からどんどんと叩かれて驚いて叫んでしまった。
私の叫び声を聞いてパパが部屋に飛んできて窓を開けると、私が出ると思っていたのに予想だにしない人が窓を開けて自分を見ていたので、びっくりして固まっている律の姿があった。
「あ、えーと、誕生日のサプライズでおめでとうを…」
私へのプレゼントを胸に抱き締めてそう言う律に、パパは部屋に入るように言ってその後ちょっとだけ律を叱ったけれど、後で爆笑していたとママが私に教えてくれた。
「驚いたろ、澪!」
怒られてもめげずにそう言ってプレゼントを渡す律に、まずにっこり笑ってお礼をいった後、勢いよく頭に拳骨を落とした。

以来律は私の誕生日には0時きっかりに部屋に忍び込むようになった。
パパからも毎年「今日は窓の鍵開けておいてあげないとな」なんて言われる始末だ。
「今年はないよ。私達受験生だよ」
今年も言われたので私は否定しておく。
だから今日はサプライズはないよ、と告げると「それは残念だね、澪」とパパ。
夕食の時パパにそう言っておきながら、私は今年も鍵を締めずにいた。
そして現在律は私の部屋に居てココアを美味しそうに飲んでいる。
「今年は止めろよ、律。風邪引いたりしたら元も子もないんだからな」
そう釘を刺しておいたにも関わらず。

「でも期待してただろー、澪」
「なんで?」
「だって窓の鍵開いてたじゃん」
私のベットに腰かけてココアを飲みながらニシシと笑う律。
いつもの私なら、律のからかいを含んだその言葉にむきになって否定したかもしれない。
「違うよ、律」
でも今日は律のそんなからかいもなんとも思わない。
毎年私の誕生日0時きっかりにやってくる律を、私はちょっと呆れながらも待っていた。
いつも「しょうがない奴」と口では言いながら迷惑がる私だったが、来てくれなかったらやっぱり寂しい。だから毎年確かにこの日は窓の鍵を開け、律が来るのを期待していた。
でも今年は違う。

期待してたんじゃないんだ。賭けてたんだ、律。

「澪?」
少し黙り込む私を律が不思議そうに見ていた。

「まあ、とにかく今年もいつもどおりのサプライズ!ってもうばれてるからサプライズにはなってないけど…。とりあえず、はい、これ!」
金色のリボンを巻いている小さな箱を私に渡そうとする律。
「これ…」
「こっちが本当のプレゼントだよーん!」
律の手からそれを受け取る私。
うさぎのキーホルダーは今、このサプライズを私にさとられないようにする為の小道具だったらしい。一瞬静まる部屋の中で律が一度「コホン」と咳払いをして両手を広げる。
「澪!ハッピーバース…」
「律!」
律が私へのお祝いの言葉を最後まで言い終える前に、私は彼女に勢いよく抱きついた。
「えええ!?澪しゃん!?」
慌てた声を出す律に何も言わず、華奢な彼女の体を抱き締める。

「み、澪!?あ、そ、そんなに嬉しかった?いやー、参るな」
喜んでもらえて嬉しいけどプレゼントはそんなに大したもんじゃあ。あ、いや、一応頑張って選んだけどさあー。
私に抱きつかれて照れているのか、少し焦っているような律の声。
「律」
「は、はい」
彼女の名前を読んでさらに強く抱き締める。
「好き。大好き」
「え?」
「律が好きだよ」
友達としてじゃないよ、本当の意味で好きなんだ。
「…」
毎年の誕生日と同じように。
雪が降っていても、この時期がとても大事な受験生でも、「今年は来るな」と私が言っても。
律は今日の0時にここへ来てくれた。

私は私自身がした賭けに勝ったのだ。

勝ったなら、律が来てくれたなら、私はこの想いを打ち明けようと思っていた。
もうずっと前から好きだった、この幼馴染を。親友を。律を。
いつか打ち明けようと思っていた。でもどうしても言えなかった。臆病な私は今の関係を壊すことを心から怖れていた。それでも想いは膨らんで今にもパチンとはじけそうだった。
だからキッカケが欲しかった。想いを告げるためにはどんなくだらない理由でもわずかな気休めになるものが、何かが私の背中を押してくれる機会を待っていた。

「…澪」
「律、好き」
だからといって何もこんな時期に言わなくてもよかったのではないだろうか。
私も律も受験生で。もうすぐ試験の日が迫っているのだ。試験に集中しなくてはいけない時に動揺させるようなことを言ったり、行動したりする私は愚かだった。でも、もう限界だった。
もう抑えていられなかった。
「ごめん、律」
こんな時に言ってごめんね。本当にごめん。
でも律もいけないんだよ。あれだけ言ったのに「今日は来るな」って。
もうすぐ受験だし、風邪を引くかもしれないし、とても雪が降ってる、こんなに寒い日でも。
律がここに、誕生日を迎えた私に会いに来てくれたから。
雪で全身がびしょ濡れになっても今、この部屋で。
いつもの私が大好きな笑顔を見せながら、お祝いの言葉を言おうとするから。

ああ、私は私自身の賭けには勝った。

ただ本当に大事なことはまだ結果が出ていない。でも私に出来る事はもうしてしまった。

律は言葉を忘れたように何も答えない。私に抱き締められたまま少しも動かなかった。
体が少し震えてきた。寒いわけではない。部屋の中は充分に暖かい。抱き締めている律もさっきまで冷えていた体に少しづつ体温が戻って今は温かい。それでも私の体の震えは止まらない。左手に持っている律からもらった小さなプレゼントの箱を落としてしまいそう。
なぜか泣きたくなる気持ちを堪えながら、私はただただ律の体を抱き締めて、彼女の言葉を待っていた。

どんな結果が出ても、せめて今この一瞬だけでも自分自身への勝利を喜ぼう。
勇気を出した自分を誉めてあげよう。

不安な心に押しつぶされそうになるのを必死に堪えながら、私はそう思っていた。

end

4巻で律ちゃんが窓が開いていた澪ちゃんの部屋に入ってちょこんと座っていたのを読んで「ああ、けっこう簡単に入れるんだ」なんて思っていたのを思い出して書いたお話です。

短編「勝利を謳おう」を読んで頂きありがとうございました。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

短編 「誰か私に答えて」

Category : 誰か私に答えて
短編です。もうすぐ澪ちゃんの誕生日ー!!
てなわけで誕生日ネタのお話ですが明るくはないです。
律x澪でまだ二人は幼馴染で親友の関係です。
読んでやるぜーという方は下記よりどうぞ。


- 誰か私に答えて -

- こんにちわ、今ちょっといいですか?
「え、は、はい…」

- あ、私たちXX雑誌の者なんですけどー。
- 今、街で高校生の皆さんにアンケートを取らしてもらっているんですよー。
「…はあ」

- 貴女は高校生ですよね?あ、大丈夫。学校名とか名前とかは別に聞かないから。
「高校二年ですけど」

- ああそうですか、二年生。懐かしいなー、
- 数年前は私も女子高生だったんですけどねー。なんか遠い昔のような気がしますよー。
- いえ、本当に変な勧誘とかじゃないですから。
- そんなに警戒しないで。それでニ、三の質問に答えてもらえませんかー?
「ええと、あの…」

- お願いします。んじゃ、さっそく。実は今回の企画のテーマは「誕生日」なんですけど。
- 今日が貴女の誕生日としたら今、なにか欲しいプレゼントはありますか?
「ええ?…えーと急にいわれても」

- あ、そんなに深く考えないでー。なんでもいいんで。
「え、じゃあ、アンプかな…」

- へー、それは何ですか?あ、楽器のね。何かバンドでもしてるんですか?
「軽音部に入ってて、ベースを…」

- あー、なるほど。バンドに打ち込む高校生活ってやつですね。
「は、はあ」

- では次の質問です。ちょーといきなりだけど今、彼氏とかいます?
「ええ!?…い、いません!」

- へえ、可愛いからいてもおかしくない感じだけど。
「そんな事、ないです…」

- いやいや。私、ちゃーんと可愛い子に絞って声掛けているんですよ。
なんか私が男だったらナンパみたいですね、これ。いやいやあくまでお仕事ですから。
では質問と。もし彼氏がいたら彼から誕生日にどんなプレゼントが欲しい?
「え、うーん、別に何でもいい、かな」

- おお。最近の高校生はけっこうその答え多いんです。物が全てじゃない、と。
「と、いうか急で思いつかないです…」

- あはは、それもそうですね。
では彼氏がいるとして「誕生日」にどこへ連れて行って欲しい?
「え、えーと。別にどこにもいかなくても。部屋で一緒にお祝いしてくれるとかでいいかも…」

- おー、慎ましい。でもそういう答えも多いですよ。
- 昨今の高校生はあまり外に出ないのかな。
「そうですか…」

- ふむふむ。えーとじゃ、今好きな人いる?あ、その反応。いますね、これはー。
- うふふ。さすが現役女子高校生ですね。恋バナに不自由はしない年頃。
- 聞いてもいいですか、相手は同じ学校の人?
「……そうです」

- 貴女の好きな人は一言で言うとどんなタイプ?
「…明るくて、うるさい?」

- あはは、うるさいくらい明るいってこと?ではその人とはどこで知り合ったんですか?
「よ、いや小学生の時」

- おお、幼馴染ですね。いいですねー、そういうの。
- じゃあ、やっぱりできればその人とお付き合いしたいなあとか思ってるんですね?
「…無理、だと思います」

- えー、そうなの。貴女はとっても綺麗なのに。
- そんなに照れなくてもー。本当ですよ。
「…ありがとうございます」

-あー、ごめんなさいね。時間取らせてしまって。
「いえ、いいですけど…」

- じゃあ、最後の質問。どうしてその人の事が好きになったの?
「え…」

- あんまり深く考えないでね。話が合うとか、趣味が一緒とか簡単でいいから。
「…」

- あー、ほんと簡単でいいですよ。無理ならいいし。
「どうしてかなんて…」

- えっ、なんて?

結局最後の質問には「わからない」と答えてアンケートは終了した。
アンケート結果が掲載される雑誌の名前を教えてもらい、今度販売される予定の化粧品の試供品を渡してくれた。お姉さんはお礼を言って私から離れた後、すぐにまた私と同じ年くらいの女の子たちに声を掛けて、同じようにアンケートを取り始めた。二人組みの女の子がキャーキャー楽しそうな声を上げるのが後ろから聞こえてくる。

ポケットから携帯を取り出して時間を確認してみると約束した時間からもう10分程過ぎていた。地下街の本屋を待ち合わせ場所にして正解だった。外で待っていたら寒くて仕方なかっただろう。
でもそのせいでアンケートに協力する事になってしまったのだけど。

きっと今慌てて走っているだろうあいつを待ちながら、私は先程のアンケートの内容を思い出していた。きっと私の答えは他の女子高生たちの答えと大して違わないだろう。さして違和感もなく多くの同じ似たような答えの中に埋没していくに違いない。
雑誌に掲載されるそれぞれの質問に対するいくつかの答えの中に一票追加されるだけ。

恋する気持ちは誰だって同じ。
好きな人への想いなんて誰だってそうは変わらないだろうから。
でも私にアンケートを取ってきたあのお姉さんは思いもしないんだろうな。
「います」と答えた私の好きな人が「幼馴染の同性」だなんて。

なぜか私は少しおかしくなってきた。顔を俯かせて笑いを堪える。
「何笑ってんの?」
幼い頃からよく聞いたその声に私は、はっとなって顔をあげた。
「り、律」
「ごめん、待ったー?」
息を少し切らせながら、能天気にそう聞いてくる。待った?当たり前だ。

「もう15分も過ぎてるぞ」
「いやー、ごめんごめん。来る途中で持病の癪で倒れたおばあさんが…」
私は無言でジロリと睨みつけた。
「嘘です、ごめんなさい、寝坊しました」
「まったく」
「ごめーん。なんかおごるからさー」
許してちょーだいと両手を合わせて頭を下げる律。
「ふう。待ってて疲れたなー、クレープ食べたいかなー」
「え。あ、いえいえ、クレープですね。わかりましたー」
とりあえず映画見た後でいいだろーと言って私の手を握って歩き出す。

「引っ張るな、律」
「早く行かないと遅れるだろ」
「誰のせいだ、誰の」
ごめんごめんと笑いながら謝る律に、私はちょっとだけ呆れながらも一緒に歩く。
繋いでいる律の手は冷たかった。
「手袋してくれば良かったのに…」
「いやー、慌ててさあ。忘れてたよ」
「バカ」
私は少しでも温かさが伝わるように律の手を少し強く握った。

「ま、今日は澪の誕生日だからな。クレープくらいわけないさ。大奮発しちゃうぜ!
映画だってご希望の甘ーい恋愛映画だもんな!乙女ですなあー澪しゃんは」
「な!?…ホラーなんかよりずっといいだろ!」
「そっかなー。まあ今日は澪しゃんの好きなのに付き合うぜー」
ニシシと笑う律を見ていて、不意にさっきの質問が思い出される。

-彼氏に「誕生日」にどこへ連れて行って欲しい?

「それで、今日は映画の後何が食べたい?今日は澪が…、澪?」
さっきのアンケートを思い出していて返答が遅れた私は慌てて「何でもいいよ」と答えた。
「なんだよー、張り合いねえな。…なんかあったのか?」
「別に、何も」
「んー、ならいいけど。何食べたいか考えとけよー」
私と律は外よりはまだ暖かい地下街を手を繋いで映画館に向かう。

アンケートをしてきたお姉さん。
別に「彼氏」にはどこにも連れて行ってもらわなくてもいいんです。
今年の誕生日は好きな人と映画を観にきたんです。
その後、御飯を食べてクレープを奢ってもらいます。
心の中でお姉さんにこれが本当の答えです、ごめんなさいとなぜか謝ってしまった。
別に謝る必要はないんだけど、なんとなく。

- できればその人とお付き合いしたいなあとか思ってるんですね?

その質問を思い出して私はほんの一瞬だけきつく目を閉じた。何かの痛みに耐えるように。
握っている律の手をまた少し強く握ってしまった。

「澪?」
「…ポップコーンも買ってもらおうかなあ」
「なあ!?遅れたお詫びはクレープだろ!」
「いいじゃないか。誕生日なんだからー」
ごめん、律。
思わず誤魔化すために思ってもいなかったことが口から出てしまった。

うーと唸ってから何かブツブツと呟く律にちょっと申し訳ないと思いながらも私は少し笑ってしまう。そんな彼女を見ているとまたも不意にアンケートの最後の質問が鮮明に思い出された。
- どうしてその人の事好きになったの?
そんなことは私が知りたいくらいなんです。…どうか誰か教えて下さい。

どうして私は幼馴染の親友を好きになってしまったんですか?

好きにならなければ良かったのに。
そうすれば手を繋ぐだけでこんなにも苦しい思いしなくてすむのに。
たとえそれがまったく納得がいかない答えだったとしても。
私は誰でもいいから何かの答えを聞いてみたい。
どうして私は律を好きになってしまったのか。どうか誰か私に答えて。

律の手のぬくもりを手袋越しに感じながら、私は心からそう願った。

end

誕生日なのに。澪ちゃんの誕生日なのに。
切ない系を書いてしまった。
でも律ちゃんと二人でお祝いなのでそれは楽しんでね。

短編「誰か私に答えて」を読んで頂きありがとうございました。

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