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短編 「製菓会社とあいつの陰謀」

Category : 製菓会社とあいつの陰謀
もうすっかり過ぎてるけどバレンタインのお話です。
読んでやるぜーという方は下記よりどうぞ。

製菓会社とあいつの陰謀


それにしても製菓会社の陰謀も最近は極まったって感じだよね。
義理チョコだの、友チョコだのさー。他にもあるんだっけ?
とにかく好きな相手がいなくても、とりあえずチョコ買いませんかーと言わんばかり。
これがバレンタイン商戦ってやつ?がっちりしてるよなあ、製菓会社。
まあ、別にそれが悪いとか、反対とかしてるわけじゃあないけど。
それはそれで楽しいしなあー。
でもたまにはこうもっと原点に帰るべきじゃないかと思うんだな。つまり…。
チョコは好きな人、つまり本命だけに渡せばいいんだよ!うん。
バレンタインって元々はそういう日だろ。私はそう思うわけ。だから今年はさ…。

「チョコはいらない?」
いつもの軽音部部室でのティータイム。
律がさっきからくどくどと、あと二週間程でやってくる二月のイベント、バレンタインへの文句?なのかなんだか知らないけど、とにかく皆に演説するように一息にそう話すと、最後に宣言するように言ったことに驚いて、即座に聞き返した。
「あー、いらないっていうか…」
「え、どうして?一つも欲しくないの、律ちゃん?」
「ん、いやだから数がどうとかじゃなくてー」

今年は義理チョコや友チョコは、貰わないし、渡さない。

首を傾げながら不思議そうに尋ねるムギに律は、さっきの言葉を補足して再度高らかに宣言した。
「律先輩。どうしたんです、突然」
梓もムギ同様不思議そうに律に聞いてきた。
「別にどうもこうもないけどな」
「り、りっちゃん、どうしたの」
ワナワナと体を少し震わせながら、どこか心配そうな表情を浮かべて律を見る唯。
「別に。…てゆうか唯、そのおかしな人を見る目は止めろ」
確かに唯にとっては大量のお菓子がタダで(ホワイトデーのお返しがあるからまるっきりタダではないと思うけど)頂けるとてもありがたい日だ。律の発言はそのありがたい日を全面否定しているようなものだった。

「律ちゃん、ダイエットでもしてるの?」
ムギがティーポット片手にそう聞いてきた。
さすがに私と同じ、常に体重を気にしているムギらしい質問だ。
「違うよ」
「まさかホワイトデーのお返しするお金がもったいないから…とかじゃあないですよね、
律先輩」
梓の質問はなかなかに鋭いと思う。とゆうか私もちょっとそう思ってた。
でも律は案外料理が上手でお菓子作りだって結構得意だから、お金が無いなら無いなりにクッキーなどを安く作ることだって出来なくはないはずだ。実際昨年はそうやってホワイトデーのお返しをしてる。
「…違うよ」
律は否定しつつも返答までに多少間が空いた。
図星で無いにしても、当たらずも遠からずかな?
「本当ですかー?」
「違う」
さすが梓は少し空いた間を見逃してはこなかった。だけど今度はすぐに否定する律。
「じゃあ、どうして~?チョコだよ、チョコ!」
唯は両手を頬に当てながら、うっとりとして「チョコ」を強調してくる。
きっと今、唯の頭の中には世界のあらゆるチョコレートが、唯と一緒に楽しくタンゴやジルバを踊りまくっているに違いない。
「…とにかく今年は貰わないし、渡さない。今の内からクラスの皆や、他にもそう伝えとこうと思ってるんだ」
唯の質問を無視して律はそう言った。
確かに今ここで「いらない」と言っていても、当日直接渡されれば、さすがに面と向かってはっきりと断るのも難しいだろう。
「それに早目に言っておけば、皆もチョコ一つ分の出費減っていいだろー」
そう言って律はムギが持ってきてくれたクッキーを手に取り、口に放り込むんだ。
「モグとにかく今年はモグ皆私のことは気にしないでくれモグ」
律はクッキーを口に入れたままそう言うと、ムギに向かって「これおいしいなあ」と能天気にクッキーの味を賞賛していた。

「信じられないよ、りっちゃん…」
心配から今や憐れみにも似た表情を浮かべて律を見る唯。
「何がだよ。てゆうかそこまで貰う気満々なのかよ、唯…」
唯は今回の律の宣言が余程おかしいと思っているのか、大げさに首を振って「信じられない」を繰り返し呟いていた。
律の言う通り、どこまで期待してるんだ、唯。
「まあ、律ちゃんがそう言うなら…」
「おう。ムギも私の分は他の子に回してやってくれ」
律は両手を頭の後ろに回し、背中を椅子にもたれさせると「さて、クラスの連中にも明日にでも言っとかなきゃなあ」と言った。
「澪ちゃん、りっちゃんが変だよ!」
唯は視線は私に向けながら、横から律の肩を掴むとぶんぶんと律の体を左右に振った。
「正気に戻って、りっちゃん!」
「私は最初から正気だ!」
左右に揺らされながらも、唯に言い返す律。
「大体いつも食べきれないからなー」
律がポツリとこぼした毎年貰うチョコの数の多さも、たぶん今回の宣言の理由の一つでもあるんだろう。確かにチョコをもらえるのは嬉しいけど、毎年それを食べるのには苦労していた。
体重計に乗るのがいつも以上に嫌になる時期だ。
でも律は私と違って普段それほど体重を気にしていない。それに昨年は「食べ切れなくても貰える物は貰うぜー」とか言ってたのに。
「澪は昨年、すごいもらってたよなあ。きっと今年もすごいぞ!」
ニシシと笑いながら言う律の言葉に、私は昨年の事がリアルに思い出されてきた。
「そ、そんな事…」
あった。確かに昨年はどう食べればいいか悩んだものだ。結局家族や軽音部の皆に頼んで、少しずつなんとか食べたのだけど。
「まあ、義理チョコや友チョコなんてさ、製菓会社のさらなる陰謀だよな~」
昨年の今頃、体重計がいつもより多めの数字が表示した時は、ある程度予想していたけれどショックだったことも思い出す。確かに陰謀だな、律。
「いい陰謀だよね~」
と、私の内心の葛藤も知らず、まともやうっとりした表情をしながらそんな事を言う唯。
まだ唯の頭の中はチョコパラダイスのままなんだろう。

「まあそれにお小遣いの節約にもなるし…」
顔を逸らしポツリと呟いたこれこそ、やっぱり律の最大の本音ではないかと思う。やれやれ。
「あ、やっぱりホワイトデーのお返しを渋ってますね、律先輩!」
梓が予想通り律に突っ込みを入れる。梓が言わなければ私が突っ込むところだった。
「い、いや違う、断じて違う」
律は片手を梓の前にビシッと出して即座に否定した。
「どうだか」
「中野~」
まだ疑わしそうな目をしていた梓に、律が立ち上がって後ろからヘッドロックした。
「あはは、よして下さいよ~」
最近では律のそんなちょっかにも慣れてきた梓は笑いながら、律の腕から逃れようとする。
そんな二人の様子を見るのはなかなかに微笑ましい。
「あー、りっちゃん、ずるいよ!」
唯も強引に参加してきて、いつものように三人でじゃれあって笑った。
「もー!いい加減練習しましょう!」
結局これもいつも通り、しつこくいじってくる律と唯に最後には梓がキレて、そう叫ぶのが最近のお約束だ。「はいはい」とおなざりに返事しながら律も唯もいつもの席に着いた。

そんな三人の様子を見ながら、私は律がなぜ突然そんな事を言い出したのか考えていた。
お小遣いの節約や、食べるのが大変というのがまるっきり嘘ではないとしても、やっぱり律があっさり「いらない」と言うのはおかしな気がした。唯とは違った意味で、イベント好きな律がそれに参加しないと宣言するのも珍しい。
また何かよからぬ事を企んでいるのでは、と思うのは長年の付き合いから仕方ないことだ。
唯と馬鹿話をして笑う律の様子はさしていつもと変わらなかったけれど。

バレンタイン当日。
学校に入るとそこらかしらでチョコが飛び交っている。
おはようの挨拶の代わりに「はい、チョコ」みたいな雰囲気だ。
下駄箱でチョコを貰ったり渡したりする数人の女の子たちを横目に、上履きに履き替え廊下を歩いていると、紙袋持って歩いている女の子たちがやたらと目に入ってくる教室に入っても、色とりどりの包装紙で巻かれてリボンに包まれたチョコの袋がやたら目につく。
お礼を言いあってチョコが入った袋を交換しあうクラスメイトたち。
「皆、楽しそうだな」
私はちょっと苦笑しながら、そんな感想が漏れた。

私はといえばすでに朝登校時に数人からチョコを貰い、下駄箱から雪崩のように落ちてきたチョコを拾い、廊下を歩いている時に声を掛けられチョコを貰い、と。
持ってきた大き目の紙袋にどんどんそれを入れていくのを眺めて嬉しく思いつつもちょっと溜息をついた。カロリーが気になるお年頃なんです。
教室に入ってからもチョコを貰いその度に「ありがとう」とお礼を言う。
今日一日何回お礼を言う事になるんだろう。そう思いつつもやっぱり皆の好意は素直に嬉しい。そんな和気藹々とした雰囲気の中で、律の周りだけはそんな周囲とはちょっと引いているように見えた。
さすがに二週間も前からクラスでも、時々声をかけられる下級生にも「義理チョコとか、友チョコとか今年はパスするわ。ごめーん」と両手あわせて謝りつつ伝えておいた律は、チョコを交換しあう様子を楽しそうに見ているが、誰かから貰っている様子はなかった。

放課後になるとバレンタインの熱気はだいぶ収まったけれど、私は下駄箱にチョコと一緒に入っていたお手紙に書いてある場所に向かう事二回。予想はしていたけれどやっぱりそれは告白へのお呼び出しだったわけで、私は好意に感謝しつつもその想いを丁重に断った。高校に入ってから何度か体験しているけれど、やっぱり告白のお断りを言うのは気が重いことだった。

少し遅れて部室に入ると私以外はもう皆揃っていた。
それぞれに貰ったチョコレートの袋や箱をテーブルに投げ出し、楽しそうに貰ったチョコそれぞれの感想をいいながら食べていた。いつもの席に座った私ももらったチョコの一つを、可愛らしい包装紙を丁寧にはずして食べてみる。おいしい…。
そんなチョコがメインのティータイムの中で、唯一律の前にはチョコレートの類が一つも置いてなかった。ムギに入れてもらった紅茶だけ。
「りっちゃん、ちょっと食べる?」
「いいよ。貰ったんだから、ちゃんと食べろよ、唯」
飲み物だけでお菓子がない律に、唯は六個入りのチョコの一つをあげようとしたが彼女はあっさり断った。皆からそれぞれチョコを勧められても、律は「いいよ、いいよ」と言って全て断っていた。
「本当に今回は全然貰ってないんですか、律先輩」
「ん?あ、まあ」
当日まで律の言葉をたぶん冗談だろうと思っていた梓は、頑なにチョコを拒否する律に少し驚きそう聞いてみると、律は少し歯切れの悪い返答をしていた。
まだ信じられないような顔をする梓に、唯やムギが教室でも律は一つもチョコを貰っていなかったと証言。
「はあ…。今回は徹底してますね」
「まあね。一度言ったからには有言実行だよ!」
ふふんと、腕を組んで胸をそらす律。
そんな律の様子を皆が少しだけ不思議そうに見ながらも、結局すぐに貰ったチョコに関心を戻して、品評会よろしくあれこれと言いだす唯たち。私も唯たちと同じようにチョコを食べながら、何となく律の様子を伺っていた。
どうして律が急に今年は「チョコいらない」なんて言いだしたのかは、バレンタイン当日になった今もまったくわからなかった。二週間前の学校からの帰り道で聞いてみても、律は「別に」とか「いつも食べきれないだろ」とか曖昧に答えていた。
私はそれだけが理由じゃないようになんとなく思っていたのだけど。まあそれは私の考えすぎで、案外それが本当なのかもしれない。
とにかく梓の言うとおり確かに今年は徹底している。

ほとんど練習もせずにチョコの試食会と化した今日の部活も終え、交差点で唯たちと別れて律と二人で歩くいつもの帰り道。
「皆、持って帰るの大変だな」
ついさっき手を振って別れた唯たちが、チョコを抱えて歩く姿を思い出したのか、律は少し笑いながらそう言った。律の言葉に私は笑えなかった。なぜなら唯たち以上にたくさんのチョコが入った大き目の紙袋を持って歩いているのだから。
「ま、澪もだけど」
チョコが詰まった紙袋の片方の紐を持ってくれている律が、袋の中身を感心したように見ながら「相変わらずモテますなあ」と言った。マフラーを口元まで覆っているので笑っているかどうかはわからないけれど、その目は確実にからかい気味に笑っていた。
「な、り、律だって…」
律だって本当ならたくさんもらっていたはずなのだ。
昨年は持って帰るの大変だー、なんて笑って愚痴をこぼしてたのに。
ちゃかしてくる律に言い返そうとして、肩にかけている鞄以外何も持たない律を見て言っても無駄だとさとった。

「律」
「ん?」
「…結局、今年は一つも貰ってないのか」
今、見ている限りでは彼女の手元にはチョコらしきものはない。でも一応聞いてみる。
「んー」
私の質問に律はYESともNOとも言わず視線を宙に浮かせた。そういえば部室で梓から聞かれたときも、律ははっきりと返答していなかった。
「どうなんだ」
律が貰ったのか、貰っていないのか。なぜだか私にはそれがとても気になった。
嘘。本当はずっと気になっていた。
急に「今年はチョコはいらない」なんて言い出したことも気になっていたけれど、今はそっちの方がとても気になる。
「んー、あー、貰ったよ」
一個、とそう言って律は人差し指を立てた。
「え」
一個。一個だけ。つまり一人だけ。そ、それって…。
「だ、誰に!」
「お、おい澪。チョコが落ちるよ」
つい興奮して紙袋の片方の紐を持っていた手を上に挙げてしまい、左右のバランスが崩れてチョコが落ちそうになった。
「あっと、ごめん。てゆうか誰からのチョコ?」
律に言われて慌てて手のバランスを取って、チョコを入れ直しながら私は再度聞いてみる。
ああ、それにしても何をこんなに焦ってんだろ、私。
「えーと、下級生の子」
「下級生?知ってる子?」
「嫌、全然知らなかった」
「は?」
全然知らない子からの、そのチョコだけは受け取ったんだ?
「え、な、なんで?」
「んーと」
律の話では今年はあれだけ宣伝しておいたから、別に何も入ってないだろうと開けた下駄箱の中にチョコが一つだけ入っていた。そのチョコと一緒に置いてあった手紙。
手紙には「放課後良ければ屋上に来てください」と書かれてあった。それって…。
「で、行ってみたらまあ、その、お約束の…」
「ああ…」
律も告白されてたんだ、今日。
その事実に少しだけ何か漠然とした不安な気持ちが、私の中で湧きあがった。

「律…」
「だからチョコはその子のだけ…ん?」
「その、告白されて。…OKしたのか」
律はそのチョコを受け取っている。それはもしかして…。
不安な気持ちがますます募る。なんだか息苦しささえ感じる。
「嫌、断ったよ」
「へ」
あまりにもあっさりと律が答えたので、私は内心で拍子抜けしてしまった。
途端にスムーズになる肺呼吸。消えていく不安な気持ちと入れ替わりにくる安堵感。
「え、あ、だってチョコ…」
「チョコだけでも受け取って下さいって言われて」
告白を断ったから遠慮したんだけど。
律はちょっとだけ申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
「そ、そうかー。まあ、それは、ね。私も結局貰ってるし」
「おおー。やっぱ澪も告白されてたんだな」
やっぱねーと笑う律。
うう、安心したせいかついポロリと口から漏らしてしまった。
「ま、まあ、そうだけど。律だってそうじゃないか」
「…まあね」
それにしても律も今日下級生から告白されていたとは。
それには驚いたけれど、律から「断った」と聞いて心底ほっとしている自分の気持ちにも今さらながらに驚いていた。
「な、なんだ。結局今年も貰ってるじゃないか。今年はチョコいらないって言ってたくせに」
一個だけとはいえ「チョコはいらない」と宣言していたのに、しっかり貰っている律に私はちょっとだけちゃかしたい気分と、ほんの少しだけその下級生からチョコを受け取ったことに対する嫉妬が入っていることを自覚していた。
だいたい律がいらないって言うから…。
「は?何言ってんだ、澪」
少しだけやるせない気分になっていた私に、律が不思議そうに聞き返してきた。
「え?」
「私はチョコはいらない、なんて言ってないぞ」
律の言葉に驚いて、紙袋を半分持ってくれているので自然と私と同じペースで隣を歩く律の横顔をまじまじと見つめてしまう。その横顔に私をからかっている様子は無かった。
「え、だって…」
「私は『義理チョコ』や『友チョコ』とかは貰わないって言ったはずだけど」
「…」
そう言えば、そうだっだ、…ような。
「でもいつも一杯で食べきれないしって…」
「だから義理とか友チョコ一杯もらうだろ、毎年」
それが食べきれないから毎年大変だって言ったんだよ。
少し肩をすくめてそう言う律。
「言っただろ」

チョコは好きな人、つまり本命だけに渡せばいいんだよ!って。

律の言われて私は二週間前の話を思い出していた。
確かに律が最初ちょっと演説するかのように何かを話をしていたけれど、いつもの単なる思いつきみたいなものだろうと思って、あまり内容をちゃんと聞いていなかった。
「私に告白までしてくれたんだから」
このチョコは『本命』チョコだろ。
そう言いながら、空いている手で肩に背負っている鞄をぽんぽんと叩いた律。
たぶん鞄の中にチョコが入っているんだろう。
「それはちゃんと受け取るよ」
少し照れたような表情を浮かべて律はそう言った。

律の話を聞きながら私は頭の中で少し彼女が言っていることを整理していた。
義理や友チョコ「は」いらない。本命「だけ」受け取りますってこと?
本命だけ。本命のチョコだけ…。
「おい、澪。澪ってば」
「え、え?」
「え、じゃないよ。もう澪の家の前だぞ」
「あ」
言われて見れば目の前に私の家。考え事していたので通りすぎそうになってしまった。
「なに、ボケてんだよ」と律が呆れながら突っ込んでくる。
「ほい」
「あ、ああ、ありがとう」
律から持っていた片方の紐を貰った私は、紙袋を持ち直してここまで一緒に持ってくれたことに御礼を言った。
「別にいいよ」
軽くそう言うと、律はじゃあなと手を振って歩いていこうとした。
あ、ちょ…。
私はまださっきの話を続きが聞きたくて帰るのを止めようとする前に、律の足がピタリと止まった。数歩歩いただけで急に立ち止った律は、私に背中を見せたまま固まったように
動かない。
「律?…あの、チョコのことだけど」
じっとしている律を不思議に思いつつも、とりあえずさっきのチョコの話の続きをしようと思い、声を掛けてみても律は私にじっと背中を見せて立ったままだ。
「律?」
もう一度律の名前を呼ぶと、律が不意に回れ右してくるりと私の正面を向いたかと思うとスタスタとこちらに向かって歩いてきた。律の急な行動に今度は私が固まってしまう。
私のすぐ側までくると、律は一瞬顔を下に俯かせたけれど「うー」と小さな唸り声を上げたかと思うと、おもむろに肩にかけてあった鞄を取って中に手を入れて何かごそごそと探していた。しばらくして律が取り出したのは。
「チョコ?」
下級生の子から貰ったチョコだろうか。
私がチョコを見てそんな風に思っていると、律は私が今日貰ったチョコの袋や箱で詰まった
紙袋の一番上にそっとそれを置いた。
「…澪にやるよ」
「え」
それは告白された下級生の子から貰ったものじゃあ…。
「一応手作りだぞ」
「いや、それは律が貰ったものだろ」
「はあ?ちげーよ。私が作ったんだよ」
「………………へ!?」
てっきり貰ったチョコだとばかり思っていた私は、思いもがけない律の言葉にかなり間の抜けた返答をしてしまった。
「だから!」

今年は貰うのも、わ、渡すのも本命チョコだけだしー。

突然チョコをもらって戸惑う私に、律がちょっと拗ねたような口調でそう言った。
顔を俯かせていてその表情はわからなかったけれど、少しだけ見えた頬や、髪の隙間から見える耳は真っ赤になっていた。
「え?え!?」
「べ、別に食べたくなかったら捨ててもいいし…」
そこまで言うと律はまたくるりと体を回して後ろを向くと「じゃあな!」と叫ぶように言って小走り気味に歩いていってしまった。
突然の出来事に家の前で呆然と立ちすくむ私。

ふらふらとしながらドアを開け、玄関にずっと持っていて重かった紙袋と肩にかけていたベースを一旦置いて、やっとほっと一息吐いた。
一息吐いたところで、一番上にある律から貰ったチョコを手に取りそれをまじまじと眺めながらさっきの律の行動をゆっくり思い返す。
今年は義理や友チョコは一切貰わないし渡さない。…でも。
告白された女の子の本命チョコは受け取った。そして自分で作ったチョコは私に…て!
ええ!?え、つまりそれって!?
そこまで考えて恥ずかしさで一気に顔が真っ赤になった。
「ば、バカ、バカ律!周りくどいとゆうか、わかりにくいんだよ!」
玄関でそう叫ぶと、私は慌てて鞄の奥に今朝から入れてあったチョコの箱を取り出した。
それからその箱と入れ替えるように、律から貰ったチョコの袋をそっと鞄に入れた。
「おかえり、澪ちゃん。…どうしたの?」
「ちょっと律の家行ってくる!」
玄関で靴も脱がずチョコが入った大きな紙袋とベースの前に立つ私を見ているママにそう言って、チョコを片手にドアを開けて飛び出した。
はやる心が足に伝わって、私もさっきの律のように小走り気味になってしまう。
胸に大事に抱えこんでいるのはチョコレートが入った箱。
チョコはいらないと律が宣言した(と思っていた)ので、今年私は散々悩みながらも、結局作ってしまった彼女へのチョコ。でも今年は渡せないだろうとあきらめていた。

でも本命チョコなら受け取るんだよな、律。
ならしっかり受け取ってもらおうか。
この包装紙とリボンだって、すごく選ぶのに悩んだんだから。
…今年もたくさん貰ったけど、渡すのは律だけなんだからな!

小走り気味に歩きながら私はそんな事を思っていた。
照れと恥ずかしさもあるけれど、それ以上にある嬉しいという気持ちが私の心を浮きだたせ、歩く速度がますばかり。
はやる気持ちを抑えながら、私は律の家へと急いだ。

end


律ちゃんの一見遠回りのような、でもストレートな告白話でした。
今年は渡せないだろうなと半ばあきらめつつも、しっかりチョコレートを手作りしてる澪ちゃん。

個人的には義理も友チョコ楽しくていいと思ってます。
チョコの出費と、いろいろ気を使って大変という一面もあるけどw

短編「製菓会社とあいつの陰謀」を読んで頂きありがとうございました。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

書き人知らず知らず

Author:書き人知らず知らず
ようこそお越しいただきました。
こちらはけいおん二次創作SSサイトです。

ジャンルは『けいおん!』律澪
律澪はジャスティス。
いい言葉ですね。

百合的要素を含みますので嫌いな方や都合の悪い方は見ないことをお勧めします。

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当サイトはまんがタイムきらら原作、アニメ「けいおん!」中心の非公式サイトです。
原作者様、出版会社様、制作会社様とは一切関係ありません。

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