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短編 「六つ目の駅を降りる前に」

Category : 六つ目の駅を降りる前に
短編です。
律x澪でまだ二人は幼馴染で親友の関係です。
読んでやるぜーという方は下記よりどうぞ。

六つ目の駅を降りる前に


窓から見える眩しいけれど、どこか穏やかさを感じさせる夕日。
クーラーがほどよい涼しさで車内を包んでくれる。心地よいわずかな揺れ。
離れた席に数人しか乗っていない静かな時間。そしてめいいっぱい遊んだ帰り道。
そうきたら、ついつい居眠りしてしまうのも無理はない。
「澪」
声を掛けても彼女はじっと私の肩に頭を乗せて、穏やかな寝息をたてている。

けっこうはしゃいでたからな。

さっきまでの澪の様子を思い出して私は少し笑った。

夏の終りに涼しさを求め、イルカショーをメインに水族館に来た私たち。
水族館の大きな水槽の中をゆったり泳ぐジンベイザメに怯えて私の後ろに隠れたり、色鮮やかな熱帯魚を見て喜んだり、見ようによってはグロテスクと言っていいおおきな蟹を見て涙目になったり。その日一日で澪は私にいろんな表情を見せてくれた。

一番楽しみにしていたイルカショーでは、澪は子供の様にお姉さんの声に反応していろいろな芸を見せてくれるイルカたちに釘付けになっていた。
始めは夢中になってイルカたちを見ていた澪も、私がちょっとだけ笑った顔をしながらこちらを見ていることに気付いて、少し照れたように顔を赤らめたかと思うと、ふいとそっぽを向いて座席に深く座り直した。さっきまでは少し体を前のめりにして食い入る様に見てたのに。
「すごいな、イルカ!かっけー」
澪のそんな態度を見て私は慌てて興奮した声を上げた。
「そ、そうだな」
別にさっき澪を見て笑ったのはからかったりとか、そんな変な意味じゃなかった。
子供の様に楽しそうに笑う澪を見て「楽しそうだな」って思って嬉しくなっただけ。
「ほらほら、あれ、見ろよ」
澪の肩を揺さぶってイルカたちを指で差す。澪は私も子供のようにはしゃぐ姿を見て、またさっきのように楽しげな表情でイルカたちを見始めた。

それでいいよ、澪。楽しんでくださいな。
もともと澪のためにここに誘ったのだから。

正直言えばイルカは嫌いじゃないし、ショーも悪くはなかったけど、澪ほど楽しくて興奮してるって訳じゃあなかった。澪を見てるほうが楽しい。
滅多に人前で無邪気に笑ったりしない澪を見るのは貴重だし、それに嬉しい。

「いやー、思ったよりずっと良かったな、律!」
「そうだな」
水族館のおみやげコーナーで、さっきのイルカか、館の中で「可愛い」を連発していたゴマアザラシのぬいぐるみを買おうか悩みながら興奮気味にそう話す澪に、私は笑ってそう答えた。
「水族館も悪くないな。サメとか蟹はちょっと…だけど」
ゴマアザラシのぬいぐるみの柔らかさを抱いて確認している澪は、数時間前に見た光景を思い出したのかちょっと青い顔になっていたけれど、それでもまあ楽しそうだった。
「どっちにするんだ?」
「う、うーん」
イルカかアザラシか。澪は決めかねているようだった。
「私はイルカの方を買おうっと」
「え」
イルカのぬいぐるみをレジに持っていこうとする私。
「律もぬいぐるみ買うのか?」
少し驚いた顔でそう聞いてくる澪。まあ、無理もないかな。
子供の頃ならともかく、もうぬいぐるみなんて中学生になってからほとんど興味なくして買ったりしなくなってたからな。
「そうだよ。私はイルカが欲しかったんだ」
たまにはいいかなーって思ってさ。
そう言って私はイルカのぬいぐるみをぽんぽんと手で優しく叩いた。
うん、なかなか触り心地はいい。
「そう…」
「澪はアザラシ買えよ」
イルカ触りたくなったらうちで触ればいーじゃん。
私の提案に澪はちょっと嬉しそうな顔で「そうだな」と言った。
二人してぬいぐるみをレジに持っていき、大きな袋に詰めてもらった。

イルカショーを見て、おみやげコーナーでぬいぐるみを買って水族館を出た時は、もう日はかなり傾いていた。水族館の後ろは海が広がっている。その海に隠れるように降りていく鮮やかな夕日。
「さて、そろそろ帰らないとな」
「そうだな」
大きなぬいぐるみの袋を抱えて駅まで歩く私たちの横顔を夕日が照らしていた。
夕方近くになって暑さは少し緩んでいた。海近くの独特な匂いを感じながら私は少しだけ切ない気分になっていた。なんでだろう。
夏がもうすぐ終るからかな。夕日がすごく綺麗だからかな。
澪と一緒に過ごした今日という楽しい時間がもうすぐ終るからかな…。
「今日はありがとうな、律」
「ん?」
ほんの少し感傷的になっていた私に、澪が突然お礼を言ってきた。
「誘ってくれて」
横を歩く夕日に照らされた澪の顔がとても満足気だった。
「いや、別に。私が行きたいって言ったんだし」
真面目に勉強している澪に雑誌つきつけて「ここ、行こうぜ!」と誘ったのは私だ。
「勉強の邪魔するな!」と文句を言いながらも、じゃあ明日行くかと言ってくれたのは澪の方だ。
「まあ、そうだけど」
私立のレベルが高い女子高に受験することに決めた澪は、今年の夏休みは勉強一色と言った感じになっていた。それは仕方ないことだけど、私はこの間からなんだか澪が少し疲れているような気がして、たまには気分転換もいいんじゃないかと思って誘ったんだ。
普通に映画でもと言ったら勉強を理由に澪は断るかもしれないと思って、わざわざいくつかの雑誌を買ってどこへ行こうかと調べた時、ここの水族館がつい最近オープンしたのを知ったのだ。

「出来たばっかりだってさー。すごいじゃん。ほら、このアザラシもかわいいぞー」とアザラシとペンギンの載っていたページを澪に見せながら誘ったのだ。
可愛いものが好きな澪は「でも、講習もあるし…」と最初は悩んでいたけれど、イルカショーが決め手となって、結局今日こうやって水族館に来ているわけだ。
根が元来生真面目な澪は普段から成績がいいのに、あれやこれやと心配して必要以上に万全を期そうとして、ちょっと周りが心配になる程一つのことに集中してしまう傾向があった。
それは悪いことじゃあないけど、そんなのが続いたら疲れてしまう。
夏休みの一日か二日くらい、こうやって遊んで悪いはずがない。

「すごい気分転換になったよ」
笑って澪がそう言った。
「だろー。毎日机にばっか座ってちゃよくないよな!」
「うん。でも律はもう少し机に座って勉強しろよ…」
律だって受験生なんだぞ。
澪が心配そうな顔して私を見てくる。
澪と違ってまだ志望校なんて全然決めていない私は、確かに中学三年生という大事な時期にあんまり勉強なんてしていなかった。
高校に行きたいのかも自分ではよくわからないくらい。
もちろん行きたくないわけじゃないけど、そのために積極的に勉強しなくては!とも思えなかった。今の成績でなんとかいける高校があればそこに行ければいいかな、なんてそんな能天気なことを考えていたのだ。

駅のプラットホームで電車を待っている間から、澪は少し眠そうな顔をしていた。
十分程待ってきたモノレールに乗る人はそんなに多くなかった。ゆったりとした気分でシートに並んで座って、二つ目の駅を出たところで急に肩に重みを感じた。
「澪?」
「律、ちょっと眠い」
「…いいよ。寝とけば」
「…ありがと」
電車よりも揺れは少ないけれど、わずかな振動がシートから伝わってくる。その振動以外に、それ以上にもっと伝わってくる澪の穏やかな寝息、肩に触れる澪の柔らかい感触。
あと、何駅先だっけ。
心の中で目的の駅まであと何駅あるか数えてみる。…あと六つ。
できればモノレールのスピードをもっと落としてもらえないかな、なんてバカな事を思う。
近くに人がいなくて良かったな。もしかしてちょっと顔が紅くなってるかもしれないから。
「澪」
小さく声を掛けてみる。
何も反応がない私の幼馴染。どうやら本当に眠っているようだ。
駅についてモノレールが止まる。しばらくしてまた動き出す。

「勉強疲れない?」
また小さく囁くように話掛ける。もちろん、眠っている澪から返答はない。
澪が選んだ女子高は偏差値高めの進学校だ。うちの学校でその高校を受けるのは澪以外にいるのかな?澪がその高校を選んだ理由は簡単で、澪にとっては苦手な「男子」がいないこと。あと優等生な澪の成績のレベルに充分合った学校だからだ。

つまり私の成績じゃあ手が届かない学校って訳。

また駅についてモノレールが止まる。
向こう側に座っていた人が降りて、この車両に乗っているのは私たちだけになった。

「澪は頭いいからなあ。そんなに勉強しなくても楽勝だと思うんだけど」
これは一人言みたいなもの。澪は相変わらず寝息を立てている。
澪と違って私はたいしてよくないわけで。どこかの公立か、それが駄目ならそこそこの成績でなんとか行けそうな私立の高校にでも行こうかな。
高校なんて別にどこでもいいんだ。だってさ。
正面に見える窓からさっきまで見えていた海が段々と遠く離れていく。
モノレールは街の中へ戻っていく。駅に止まる。三つ目。誰も乗ってこない。

「澪の受ける高校の制服可愛いよね」
澪に学校案内を見せてもらった時、そう思った。その時口にも出して言った。
「可愛いじゃん」って。
でもその制服を見た澪はすごく可愛いだろうな、なんてことは言わなかった。
私自身は自分が着る制服なんてどうでもいいやと思ってる。正直制服って面倒くさい。
やれリボンがずれてるのがだらしないとか、スカートが短すぎるとか。今でも先生にいつも注意されている私としては、どの制服でも窮屈なだけ。それに澪の行く高校の制服が私に似合うとも思えないし。ん?澪の行く高校の制服?

何言ってんだか。私がそんなところにいける訳ないだろ。

いつのまにか四つめの駅からモノレールが出ていた。考え事をして止まっていたことに気付かなかった。誰も乗ったり、降りたりしないこの車両だけなんだか現実味がない別世界みたいな気がしたけれど。…ああ、あと二つで終りなんだ。
やっぱり現実。

「お互い高校生になったらもうこんな風に遊ばなくなるかな?」
これも別に澪には聞いてるつもりで言ってる訳じゃない。ビルの隙間に降りていく夕日から目を離さずに呟く只の一人言。
別々の高校に行く私たちはたぶん、別々に行った高校で新しい友達が出来て、別々の生活が始まって…。そこまで考えて目を閉じて考えるのを止める。
「澪は高校生になったらもっと綺麗になるだろうなあ」
そんな澪を側で見てたいな。でも高校違うしな。
目を開けてちらりとすぐ側に居る澪を見てみる。起きてないよな…。
小さく囁くような声かもしれないけど澪が起きてたら絶対言わない、てか言えない。
五つ目の駅。もうすぐ終り。そろそろ澪を起こした方がいいかな。

でももうちょっとだけ…。あとほんの少しだけだから。

しばらく何も考えず肩から感じる澪の鼓動を静かに聴いた。
「ねえ、澪」
小さな小さな声で隣にいる人の名前を呼ぶ。もうしばらく起きないで、澪。
「私、澪とずっと一緒にいたいなあ」
一緒にいれないなら、やっぱり澪がいないなら、どこの高校選んだって一緒だよな。
どこの高校でもいいなら勉強なんて面倒くさいことしない。
ちょっとだけ泣きそうになる。さっき出した声も少し震えてしまっていたかも。
でも、どうでもいいや。澪は今は眠っているから…。
「一緒にいようよ、律」
心臓が間違いなく十センチくらいは大きく跳ねた。
慌てて横を見るとまだ私の肩に頭を乗せて目を閉じている澪。
「え、あれ、み、澪」
お、起きてたんですか…?
冷房が程よく聞いた車内でさっきまで汗なんて少しもかいてなかったのに、猛烈に吹き出てくる汗。動悸が激しい心臓。
「一緒の高校受けて、律」
「澪…」
お願い。と澪は態勢は少しも変えず、口だけを動かす。
「でも」
「私が勉強教えるから」
不意に澪の左手が私の右手を握った。その手はすごく熱かった。
「お願い、律」
一緒に行こう。一緒に同じ高校の高校生になろう。
そう言う澪の声は少し震えてる。握っている手にも力が入ってくるのを感じる。
澪の手を握り返しながら私は考えていた。

今から頑張ったらまだ間に合うかな。澪が教えてくれるなら。
澪と同じ高校へ行けるなら、面倒くさい勉強だってやる気がでるかもしれない。

「澪」
私は澪の肩に手を触れた。ゆっくりと起きる澪。
「私は律が、あの高校の制服着てる姿見てみたいんだ」
きっとボタンとかはめないで、着崩しちゃうんだろうけど。
「でもそれが案外似合ってるかも」
そう言って私を見つめる澪の横顔にもう夕日は照らしていなかった。
いつのまにか点灯していた車内のライトが、笑っているくせにどことなく不安そうな表情をする澪の顔を浮かびあがらせる。
そんな彼女を見た後、少し顔を俯かせる私。しばらく無言になる。
車内に私たちが降りる駅が次であることを知らせるアナウンスが響く。

「…私も」
もうすぐ降りなくてはいけない。
「ん?」
だからもう迷っている時間はない。
「私もあの高校の制服を着た澪を見たい」
すぐ側で。同じ学校の中で。
「律…」
私がそう言ってちょっと照れたように笑うと、澪が少し泣いた。
澪の小さな泣き声を聞きながら、これは嬉しくて泣いてくれてるんだよね、なんて思いながら澪の頭をちょっと撫でた。

しばらくしてモノレールは私たちが降りる駅に静かに止まった。
澪の手を繋いだまま駅に降りた私の目に映る、もうビルに隠れて上の切れ端しか見えない夕日がとても綺麗だと思った。

end

かくして次の日から澪ちゃんの個人レッスンがスタート。
短編「六つ目の駅を降りる前に」を読んで頂きありがとうございました。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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書き人知らず知らず

Author:書き人知らず知らず
ようこそお越しいただきました。
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ジャンルは『けいおん!』律澪
律澪はジャスティス。
いい言葉ですね。

百合的要素を含みますので嫌いな方や都合の悪い方は見ないことをお勧めします。

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