スポンサーサイト

Category : スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

短編 「勝利を謳おう」

Category : 勝利を謳おう
短編です。
もう過ぎちゃったけど誕生日ネタです。
そしてまた明るくはないけど、暗くもない、…かな。
律x澪でまだ二人は幼馴染で親友の関係です。
読んでやるぜーという方は下記よりどうぞ。

- 勝利を謳おう -


私は一つの賭けをしようと決めた。

ファンヒーターから漏れる小さな音と、ノートに文字を書くシャーペンの音だけが静かな部屋の中に響く。部屋の中は充分に暖かいけれど、私は体を冷やさないようにカーディガンを纏っている。試験当日まで万全を期すために体調管理は欠かせない。

私だけでなく多くの受験生はもうラストスパートの時期。
センター試験を受けるならもう明日が勝負だ。
国立の推薦を蹴り、皆と一緒に受ける私立の女子大の試験日まではあともう少しある。
当然今は、試験日まで勉強に集中しなければいけない大事な時だ。
そんな受験の大事な時に私は一つの賭けをする事に決めた。
その賭けの結果はもうすぐわかる。

ふと時計を見るとあと15分程で今日が終わる。
私は椅子から立ち上がって、一度背を伸ばし固まっていた体を軽くほぐす。
机から離れ、換気の為に少しだけ窓を開けた。
「雪…」
外は雪が降っていた。夜の闇の中にしんしんと落ちていく雪は、綺麗だけどとても寒い。
朝のニュースで今日の夜は冬将軍が猛威を振るいます、と言っていたのを思い出す。
「ますます賭けは私の不利…かな」
小さく呟いた私の声は雪が静かに消していった。
寒気が部屋に入る前に窓を締める。でも鍵は閉めなかった。

勝敗がどちらにころぶとしても、そろそろ用意をしておかないと。
部屋を出て階段を静かに降りてキッチンに入り、大き目のマグカップ二つに熱いココアを入れる。もしかして無駄になる作業かもしれないけれど…。
でも誰だって勝負すると決めたなら、最初から負けるつもりでする人はいないだろう。
だから用意しておくに越した事はない。後の事は後で考えるまで。
でももし私の賭けが負けてしまったら。その時は潔くこのココアを二つ飲もう。

「太るかな…」
冬はそれでなくても太りやすいのに。
甘いココア。心配にはなるが、でも今日だけは仕方ない。
キッチンの壁に飾ってある時計は、0時まであと5分を示していた。
ココアを温めるのにはもう1分もいらない。それでも私はもうしばらくだけここに居なくては。
部屋に戻るのは0時を過ぎてから。

***

受験生の私たちだから、今は勉強が全てにおいて優先されるべきだろう。
だから皆が私の誕生日パーティーを開こう。
…そう言ってくれたのを心から喜びつつも、私はそれを辞退した。

「えー、澪ちゃん。いいじゃん、一日くらいー」
「駄目だ、唯。今が一番大事なんだぞ」
私のために貴重な時間を割いてもらうのは申し訳ない。
「でも…」
「いいんだ、ムギ。試験が終わって合格発表聞いてから盛大に皆で騒ごうよ」
今年ばかりは1月生まれを自分の不運としてあきらめるよ。
私がそう言って笑っても、唯やムギは納得いかない顔をしていた。
梓も少し寂しそうな顔で私を見ている。
「まあ、しょうがないな。澪、今年はあきらめて誕生日を暗ーい気持ちで一人ケーキを食べて過ごしてくれ」
な!と笑顔で言う律の頭に、お約束の拳骨を一つ落としておく。

「…イタタ」
「とにかく皆気にしないでくれ」
私は至って平気な様子を見せた。
「澪ちゃんがそう言うなら…」
「うーん、仕方ないけど。でもりっちゃんがそんな事いうなんて失望したよ、りっちゃん隊員!」
「残念ですね…」
「しょうがないだろー」
唯や梓の言葉に律が「受験生なんだから、当然だろ」と答えた。
「いいから。とにかく全ては受験が終わってから、な」
私の言葉に全員が「しょうがない」といった感じで渋々納得してくれた。
そんな皆の気持ちはとても嬉しくて心から感謝した。約一名を除いて。

誕生日の前日。
私は律を除く軽音部の皆と和から。他にファンクラブからも受験の応援も兼ねたプレゼントをたくさんもらった。誕生日の日は学校がお休みなので前日に皆持ってきてくれたのだ。
貴重な時間を割いて、プレゼントを買ってきてくれた皆の心遣いが嬉しい。

「律先輩は澪先輩にプレゼント渡さないんですか?」
プレゼントの袋や箱を両手一杯に抱えて歩いていた私の隣で、プレゼントの一部を持ってくれていた律に、梓がちょっとだけ責めているような口調でそう聞いてきた。
「ああ、プレゼントね」
梓にそう聞かれた律は、ポケットからちいさなうさぎのぬいぐるみが付いたキーホルダーを取り出すと、私の目の前に差し出した。
「ほい、澪。おめでと」
「ああ、どうも」
さして感激した様子もなく私はそれを受け取ろうとしたけど、両手がプレゼントの袋で塞がっているのでどうしようか考えていると、律は私の制服のポケットにそれを無造作に入れた。

「…それだけ」
梓が少し呆れたような声で律を見ている。
「あのなー、梓。私と澪のつきあいの長さ知ってるだろ。そんな今さら大げさにするもんじゃあないんだよ」
「そんなものですか」
ちょっと納得いかないような梓に、私は「いいから、いいから」と言いながら少し笑った。

「さて、帰るぞー、澪」
「ああ」
荷物を抱えて学校から出ると外はどんよりとした曇り空でとても寒かった。
「今日の夜は雪が降るらしいわね」
寒そうに手を合わせながら空を見ているムギ。
風がとても冷たい。私達の受験日には少しは寒さが緩んでいるといいのだけれど。
私はそう思いながら、たくさんのプレゼントをなんとか家に持って帰った。

***

0時。
キッチンにある時計の長針も短針も丁度真上を指した。
ココアが入った二つのコップをトレイに乗せる。

さあ、私が「私自身」に賭けた勝負の行方を見届けよう。

頭でそう思っても私の体は動かなかった。早く行かないとココアが冷めてしまう。
わかっていても足が前に出なかった。
でもこのままここでじっとしているわけにはいかない。
「…行こう」
トレイを持ってカップを落とさないように慎重に階段を昇る。部屋のドアノブに手を掛けたとき、私は自分が少しだけ震えていることに気付いた。
一つ深呼吸をする。マグカップの中で揺れていたココアが水平になるのを待ってから、私はドアノブを横に回した。

開いた瞬間部屋から感じる寒気。立ちすくむ人の気配。
「…いらっしゃい」
「お邪魔します」
部屋に居た彼女は毛糸の帽子を被り、暖かそうなダウンジャケットを着ている。
首に巻いたマフラーを口元まで覆った完全な防寒スタイル。
でも頭や肩に少し雪が積もっていて、見るだけで寒そうだった。
ここに来るまでは差していただろう傘も、窓によじ登る際は使えなかったのだろう。
少しだけ寒そうに震えながら笑うその鼻は赤かった。まるでトナカイさんだ。
今日はクリスマスじゃなくて、私の誕生日なんだけど。

私は引き出しからハンドタオルを取り、その体にかかっている雪を払いのけた。
「悪い。入る前にちょっと払ったんだけど」
「いいから。ほら、脱いで。風邪引く」
ハンガーに帽子とジャケット、マフラーをかける。手袋はファンヒーターの前で乾かす。
「予想外に雪がひどかったよ」
いや、寒かったー、と言って笑うその手に熱いココアを渡した。渡すときに少し触れたその手は冷えていた。
「ほら。早く飲め」
まったく。本当に風邪でも引いたらどうするんだ。もうすぐ受験なのに。
「おお、用意いいなー、澪。あり?もしかして読まれてた?」
ココアを受け取るその顔は私があまり驚かず、さらにこんなものまで用意していたのでどうやらサプライズは不発に終ったことを残念がっているようだった。
「まあね。毎年の事だし」
「へへへ。そうかー、残念」
うまー、と叫んで熱いココアを啜る不法侵入者は私の幼馴染で親友だ。

中学生のとき、私の誕生日に驚かせようと考えた彼女。
今日と同じ0時ちょうどに私の部屋に、サンタクロースよろしく入ろうとしたのだが。
最初の時は私はそれに気付かず、当然ながら窓の鍵を閉めていたので、夜中に窓の外からどんどんと叩かれて驚いて叫んでしまった。
私の叫び声を聞いてパパが部屋に飛んできて窓を開けると、私が出ると思っていたのに予想だにしない人が窓を開けて自分を見ていたので、びっくりして固まっている律の姿があった。
「あ、えーと、誕生日のサプライズでおめでとうを…」
私へのプレゼントを胸に抱き締めてそう言う律に、パパは部屋に入るように言ってその後ちょっとだけ律を叱ったけれど、後で爆笑していたとママが私に教えてくれた。
「驚いたろ、澪!」
怒られてもめげずにそう言ってプレゼントを渡す律に、まずにっこり笑ってお礼をいった後、勢いよく頭に拳骨を落とした。

以来律は私の誕生日には0時きっかりに部屋に忍び込むようになった。
パパからも毎年「今日は窓の鍵開けておいてあげないとな」なんて言われる始末だ。
「今年はないよ。私達受験生だよ」
今年も言われたので私は否定しておく。
だから今日はサプライズはないよ、と告げると「それは残念だね、澪」とパパ。
夕食の時パパにそう言っておきながら、私は今年も鍵を締めずにいた。
そして現在律は私の部屋に居てココアを美味しそうに飲んでいる。
「今年は止めろよ、律。風邪引いたりしたら元も子もないんだからな」
そう釘を刺しておいたにも関わらず。

「でも期待してただろー、澪」
「なんで?」
「だって窓の鍵開いてたじゃん」
私のベットに腰かけてココアを飲みながらニシシと笑う律。
いつもの私なら、律のからかいを含んだその言葉にむきになって否定したかもしれない。
「違うよ、律」
でも今日は律のそんなからかいもなんとも思わない。
毎年私の誕生日0時きっかりにやってくる律を、私はちょっと呆れながらも待っていた。
いつも「しょうがない奴」と口では言いながら迷惑がる私だったが、来てくれなかったらやっぱり寂しい。だから毎年確かにこの日は窓の鍵を開け、律が来るのを期待していた。
でも今年は違う。

期待してたんじゃないんだ。賭けてたんだ、律。

「澪?」
少し黙り込む私を律が不思議そうに見ていた。

「まあ、とにかく今年もいつもどおりのサプライズ!ってもうばれてるからサプライズにはなってないけど…。とりあえず、はい、これ!」
金色のリボンを巻いている小さな箱を私に渡そうとする律。
「これ…」
「こっちが本当のプレゼントだよーん!」
律の手からそれを受け取る私。
うさぎのキーホルダーは今、このサプライズを私にさとられないようにする為の小道具だったらしい。一瞬静まる部屋の中で律が一度「コホン」と咳払いをして両手を広げる。
「澪!ハッピーバース…」
「律!」
律が私へのお祝いの言葉を最後まで言い終える前に、私は彼女に勢いよく抱きついた。
「えええ!?澪しゃん!?」
慌てた声を出す律に何も言わず、華奢な彼女の体を抱き締める。

「み、澪!?あ、そ、そんなに嬉しかった?いやー、参るな」
喜んでもらえて嬉しいけどプレゼントはそんなに大したもんじゃあ。あ、いや、一応頑張って選んだけどさあー。
私に抱きつかれて照れているのか、少し焦っているような律の声。
「律」
「は、はい」
彼女の名前を読んでさらに強く抱き締める。
「好き。大好き」
「え?」
「律が好きだよ」
友達としてじゃないよ、本当の意味で好きなんだ。
「…」
毎年の誕生日と同じように。
雪が降っていても、この時期がとても大事な受験生でも、「今年は来るな」と私が言っても。
律は今日の0時にここへ来てくれた。

私は私自身がした賭けに勝ったのだ。

勝ったなら、律が来てくれたなら、私はこの想いを打ち明けようと思っていた。
もうずっと前から好きだった、この幼馴染を。親友を。律を。
いつか打ち明けようと思っていた。でもどうしても言えなかった。臆病な私は今の関係を壊すことを心から怖れていた。それでも想いは膨らんで今にもパチンとはじけそうだった。
だからキッカケが欲しかった。想いを告げるためにはどんなくだらない理由でもわずかな気休めになるものが、何かが私の背中を押してくれる機会を待っていた。

「…澪」
「律、好き」
だからといって何もこんな時期に言わなくてもよかったのではないだろうか。
私も律も受験生で。もうすぐ試験の日が迫っているのだ。試験に集中しなくてはいけない時に動揺させるようなことを言ったり、行動したりする私は愚かだった。でも、もう限界だった。
もう抑えていられなかった。
「ごめん、律」
こんな時に言ってごめんね。本当にごめん。
でも律もいけないんだよ。あれだけ言ったのに「今日は来るな」って。
もうすぐ受験だし、風邪を引くかもしれないし、とても雪が降ってる、こんなに寒い日でも。
律がここに、誕生日を迎えた私に会いに来てくれたから。
雪で全身がびしょ濡れになっても今、この部屋で。
いつもの私が大好きな笑顔を見せながら、お祝いの言葉を言おうとするから。

ああ、私は私自身の賭けには勝った。

ただ本当に大事なことはまだ結果が出ていない。でも私に出来る事はもうしてしまった。

律は言葉を忘れたように何も答えない。私に抱き締められたまま少しも動かなかった。
体が少し震えてきた。寒いわけではない。部屋の中は充分に暖かい。抱き締めている律もさっきまで冷えていた体に少しづつ体温が戻って今は温かい。それでも私の体の震えは止まらない。左手に持っている律からもらった小さなプレゼントの箱を落としてしまいそう。
なぜか泣きたくなる気持ちを堪えながら、私はただただ律の体を抱き締めて、彼女の言葉を待っていた。

どんな結果が出ても、せめて今この一瞬だけでも自分自身への勝利を喜ぼう。
勇気を出した自分を誉めてあげよう。

不安な心に押しつぶされそうになるのを必死に堪えながら、私はそう思っていた。

end

4巻で律ちゃんが窓が開いていた澪ちゃんの部屋に入ってちょこんと座っていたのを読んで「ああ、けっこう簡単に入れるんだ」なんて思っていたのを思い出して書いたお話です。

短編「勝利を謳おう」を読んで頂きありがとうございました。
スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

書き人知らず知らず

Author:書き人知らず知らず
ようこそお越しいただきました。
こちらはけいおん二次創作SSサイトです。

ジャンルは『けいおん!』律澪
律澪はジャスティス。
いい言葉ですね。

百合的要素を含みますので嫌いな方や都合の悪い方は見ないことをお勧めします。

当サイトはリンクフリーですのでリンクをしていただけると嬉しいです。相互リンクもよろしければ大希望です。

当サイトはまんがタイムきらら原作、アニメ「けいおん!」中心の非公式サイトです。
原作者様、出版会社様、制作会社様とは一切関係ありません。

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
けいおん時計
リンク
ランキング

FC2Blog Ranking

RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。